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熊谷修「間違いだらけの健康づくり」

コレステロール降下治療、がんや自殺等での死亡リスク増…低数値の高齢者は知力低下も

文=熊谷修/東京都健康長寿医療センター研究所協力研究員、学術博士
コレステロール降下治療、がんや自殺等での死亡リスク増…低数値の高齢者は知力低下もの画像1「Thinkstock」より

 メタボ対策でとにかく悪者扱いされるのがコレステロールだ。しかし、生涯を通して心身の基盤をしっかり維持するうえでとても重要な脂質であることを明記する疫学研究の成果が数多くある。からだの健康に対するコレステロールの負の効果は、正の効果と比べるとほんのわずかなのである。今回でひとまず、コレステロールをテーマにしたお話は終了する。そこで締めくくるのにふさわしい研究成果を紹介しよう。

 世界中でこれまで発表されたコレステロール値を下げる薬物療法や食事療法の有効性を示した論文のなかで、生命予後までフォローアップし6つの成果を集め再検証した、いわゆるメタアナリシスである。1990年に発表されたMuldoon らのこの研究は注目され、コレステロール値を低下させる治療の妥当性に一石を投じるものであった(Lowering cholesterol concentrations and mortality; a quantitative review of primary prevention trials. British Medical Journal 301, 309-314,1990)。

 詳しく説明しよう。分析対象は平均年齢47.5歳の2万4847名の男性である。対象のコレステロール値を下げる治療期間の平均は4.8年である。コレステロール降下治療(療法)を受けたグループと受けないグループ(対照)の死亡リスクを死因別に比較している。

 まず、冠状動脈硬化性心疾患(コレステロールが高いと発症しやすいとされる心臓病)で死亡するリスクは、治療したグループはしないグループより15%低い。次いで、がんで死亡するリスクは、治療したグループがしないグループより逆に43%高くなっている。そして、病気ではない事故や自殺で死亡するリスクに関しては、治療したグループはしないグループより76%高くなっている。その結果、死因を問わず死亡するリスクを総合して比較すると、治療したグループとしないグループはまったく変わらないというものとなった。

 さらに、優れた療法の有無を明らかにするため薬物治療と食事療法に分け同様の比較をしているが、薬物であろうが食事であろうがほぼ同じような結果となり、総死亡リスクに差はなかった。コレステロール降下療法は心臓病死亡のリスクは下げても、自殺、事故、がんのリスクを大きく上げるという分析結果は衝撃的である。

熊谷修/博士(学術)、一般社団法人全国食支援活動協力会理事

熊谷修/博士(学術)、一般社団法人全国食支援活動協力会理事

1956年宮崎県生まれ。人間総合科学大学教授。学術博士。1979年東京農業大学卒業。地域住民の生活習慣病予防対策の研究・実践活動を経て、高齢社会の健康施策の開発のため東京都老人総合研究所(現東京都健康長寿医療センター研究所)へ。わが国最初の「老化を遅らせる食生活指針」を発表し、シニアの栄養改善の科学的意義を解明。介護予防のための栄養改善プログラムの第一人者である。東京都健康長寿医療センター研究所協力研究員、介護予防市町村モデル事業支援委員会委員を歴任

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