コレステロール降下治療、がんや自殺等での死亡リスク増…低数値の高齢者は知力低下も
メタボ対策でとにかく悪者扱いされるのがコレステロールだ。しかし、生涯を通して心身の基盤をしっかり維持するうえでとても重要な脂質であることを明記する疫学研究の成果が数多くある。からだの健康に対するコレステロールの負の効果は、正の効果と比べるとほんのわずかなのである。今回でひとまず、コレステロールをテーマにしたお話は終了する。そこで締めくくるのにふさわしい研究成果を紹介しよう。
世界中でこれまで発表されたコレステロール値を下げる薬物療法や食事療法の有効性を示した論文のなかで、生命予後までフォローアップし6つの成果を集め再検証した、いわゆるメタアナリシスである。1990年に発表されたMuldoon らのこの研究は注目され、コレステロール値を低下させる治療の妥当性に一石を投じるものであった(Lowering cholesterol concentrations and mortality; a quantitative review of primary prevention trials. British Medical Journal 301, 309-314,1990)。
詳しく説明しよう。分析対象は平均年齢47.5歳の2万4847名の男性である。対象のコレステロール値を下げる治療期間の平均は4.8年である。コレステロール降下治療(療法)を受けたグループと受けないグループ(対照)の死亡リスクを死因別に比較している。
まず、冠状動脈硬化性心疾患(コレステロールが高いと発症しやすいとされる心臓病)で死亡するリスクは、治療したグループはしないグループより15%低い。次いで、がんで死亡するリスクは、治療したグループがしないグループより逆に43%高くなっている。そして、病気ではない事故や自殺で死亡するリスクに関しては、治療したグループはしないグループより76%高くなっている。その結果、死因を問わず死亡するリスクを総合して比較すると、治療したグループとしないグループはまったく変わらないというものとなった。
さらに、優れた療法の有無を明らかにするため薬物治療と食事療法に分け同様の比較をしているが、薬物であろうが食事であろうがほぼ同じような結果となり、総死亡リスクに差はなかった。コレステロール降下療法は心臓病死亡のリスクは下げても、自殺、事故、がんのリスクを大きく上げるという分析結果は衝撃的である。