ドーピングの具体例
具体的にドーピングとは、以下のようなものがある。
・筋肉増強剤…アナボリックステロイド(Anabolic Steroid)と呼ばれるステロイド系ホルモンである。通常の食事とトレーニングでも筋肉のタンパク合成を促進し、筋肉を増大させることができる。
・持久力増強…赤血球には筋肉へ酸素を供給する働きがあるため、体内の赤血球を増やすと持久力が上がる。そこで、一時的に赤血球を増やすのが血液ドーピングだ。事前に採血し、保存しておいた自己血液を試合前に輸血する方法と、赤血球を増加させるホルモンのエリスロポエチンが使用される場合がある。
・精神をコントロールする薬…格闘技系などの場合は、興奮作用がある薬物が使用される。興奮作用により、痛みや疲労感などが鈍くなるため、パフォーマンスが向上する。また、アーチェリーなどでは、安定剤が手の震えを抑えるためなどに使用される。
・うっかりドーピング…薬やサプリメントに禁止物質が含まれていることに気付かずに服用し、ドーピング違反となってしまうことをいう。薬やサプリメントなどには、複数の成分が含まれているため注意が必要である。今回のネリのケースも、食べた肉に禁止薬物が含まれていた可能性が原因ではないかといわれている。
しかし、もしそうだとしても、プロ意識に欠けると評価されても仕方ないところだ。一般的には、選手もサポートするスタッフも、うっかりドーピングが起きないように万全を期している。とはいえ、うっかりドーピングがたびたび起きていることも事実だ。記憶に新しいところでは、テニスのマリア・シャラポワ選手が2016年1月、全豪オープン準々決勝で退敗した際の検査で、禁止薬物のメルドニウムに陽性反応が出て国際テニス連盟(ITF)から1年3カ月の出場停止処分を受けたことだ。
シャラポワ側は、WADAの禁止薬物リストにメルドニウムが2016年初めから新たに加わったことを忘れていたと主張し、うっかりドーピングだったことをアピールした。当初は2年間の出場停止処分を受けたが、シャラポワ側は処分の緩和を求めスポーツ仲裁裁判所(CAS)に提訴し、処分期間が短縮された経緯がある。うっかりドーピングは同情したくなる側面もあるが、処分を免れることはできない。
今回のネリのドーピング疑惑も、違反が確定すれば王座剥奪は免れないばかりか、処分の内容によっては、山中との再戦すらも難しくなるだろう。なんとも後味の悪い事態となったことは残念だが、筆者も山中の熱烈なファンのひとりなので、再び王座に返り咲いてほしいと願うばかりだ。
(文=吉澤恵理/薬剤師)