もちろん、上記の注意喚起でもわかるように、危険なのはあくまで「ジビエの生食」であり、十分に加熱して食べる分には問題はない。ところが、こうした知識や衛生管理がジビエを提供する側に徹底されているかといえば、決してそうとはいえない現状もある。
昨年9月27日には、情報番組『あさイチ』(NHK)が沖縄県西表島の郷土料理として「イノシシの刺身」を紹介したところ、視聴者から批判が殺到、炎上する騒動が起きた。
厚労省が14年11月に発表した「野生鳥獣肉の衛生管理に関する指針(ガイドライン)」には、「生食用として食肉の提供は決して行わないこと」と明記されている。過去には、ジビエの生肉を食した男性がE型肝炎ウイルスに感染し、死亡したケースもある。ジビエの危険性については、まだまだ周知されていないのが実情だ。
ハンターが高齢化、若手不足で狩猟量が激減か
もうひとつの問題は、野生鳥獣を捕獲する狩猟者=ハンターたちが年々減少しているという点だ。
環境省によれば、13年時点で北海道を除く本州以南に305万頭(中央値)の鹿が生息しているという。その繁殖力は非常に高く、現状のまま増え続けると23年には453万頭に達すると考えられている。これを半減させるためには、計算上は現状の倍以上のペースで捕獲を進めなければならない。
しかし、丸山氏によると「現在のハンターの数は18万人程度で、もっとも多かった時期に比べて4分の1にまで減少している」という。
「加えて、ハンターたちの高齢化という問題もあります。ハンターの平均年齢は68歳で、もはや40代以下のハンターはほとんどいないのが現状。現在活動しているハンターは近い将来に引退するため、狩猟量はガクッと減少します。そのとき、はたしてジビエの安定供給が望めるのか? 私は疑問ですね」(同)
狩猟免許所持者数の推移を見ると、1975年には全国に50万人以上いたハンターが2013年には20万人を切り、その多くが60歳以上だ。20~40代のハンターはほとんど育っていない。いくら政府が「ジビエの消費量を倍増させる」と息巻いても、捕獲する人がいなければ実現は厳しい。
しかも、ハンターが減少して市場に十分に供給できないため、今やジビエは高級品となっている。スーパーマーケットなどでは、鹿肉が100g当たり300~400円前後で販売されている。ただでさえ「食のリスク」がある上に高額な食材を買い求める人は少ないだろう。