過労自殺問題から「学ばない」電通…ゼロ目標は、隠れ残業&パワハラ被害者を増やす危険
ところが、会社が三六協定違反や過重労働ゼロを公言しすぎると、社員は残業したくても、それを上司(会社)になかなか言い出せなくなってしまうのです。その結果、繁忙期に自宅に仕事を持って帰ったり、19時に退社した後に近くのカフェや民間の会議室で業務を継続してしまいます。
これが完全な自由意志の下の自発的な行為であればまだいいのですが、当然のように求められる行為との違いは紙一重です。自発的な行為で始まったものの、次第に既成事実化していき当然の行為になる例を私はたくさん見てきました。
そもそも、メンタルヘルス不調になって判断力が低下してしまった人は、「仕事が終わらない自分が悪いから、社外で業務(実質の残業)をしてもこれは自分のせい」と考えがちなのです。
ゼロを目指すよりも、残業が続いている時こそ心身の健康度をチェック可能な体制づくり、残業が続いた後の休暇取得の推進や義務化など、具体的対策を設け、社内で実施し社員間でその施行状況や経験を共有できるほうが、現実的であると思います。健康診断の受診率においてどの部署が何%の受診率と比べられるように、これに関しても、「どの部署が残業時間何時間ですが、その後の特別休暇取得率は何%です」といったような内容を毎月の衛生委員会で共有することは可能なはずです。
また、同計画におけるハラスメントも“ゼロ”にする計画は、それ自体は素晴らしいと思います。しかし、これもやはり同様に、実効性を伴わない“机上の空論”に響いてしまうのは、私だけでないのではないでしょうか。
残念なことですが、現実問題としてハラスメントはなかなかゼロにはなりません。理由は2つあります。
1つめは、何をハラスメントとするかの定義が曖昧であるからです。その取り方は人それぞれ異なるのです。2つめは、ハラスメント加害者は結局、“ハラスメントするためにその理由を見つける”のであり、“理由があるからハラスメントをする”のではないからです。具体的には、たとえば、電話対応の仕方が悪いから上司に怒鳴られるのではなく、上司が自分の感情をどこかに爆発させたいから、その理由として電話対応の不手際を目をつけるのです。本来であれば、電話対応ができていない部下には、怒鳴るのではなく適切な指導がなされるべきなのです。