それはほんとうに「正義感」なのか?
他人の粗探しをする人は、どこにもいるものだ。本人は正義感を振りかざしているつもりなのだろうが、傍から見れば、どうでもいいことに「いちゃもん」をつけているようにしか思えない。昔からこの類の人物はいたが、ネット時代になってから、このような「正義」の仮面を被った攻撃行動が非常に目立つ。
歌舞伎役者・市川海老蔵の妻の元アナウンサー・小林麻央さんが闘病虚しく亡くなったのは、多くの人びとに大きな悲しみを与えた。誰もが海老蔵に同情した。
ところが、麻央さんが亡くなって5日後に、海老蔵が幼い子どもたちを連れて東京ディズニーランドにいるのを目撃され、ネット上で批判されるという事態が生じた。まだ妻の死から1週間も経ってないのに切り替えが早すぎる、喪に服すべきなのに立ち直りが早すぎるというのだ。だが、そんなことは他人が首を突っ込む問題ではないはずだ。
家庭の事情など他人にわかるものではない。幼い子どもたちを元気づけたいということかもしれない。海老蔵にしても、ディズニーランドに子どもたちを連れて行ったからといって、妻の死によるショックから立ち直ったと他人が決めつけるのはどうなのか。本人は、落ち度のある人物を批判することで正義感を発揮しているつもりなのだろうが、果たしてそれは落ち度と言えるだろうか。
ネット上の批判が異様に盛り上がるのが、著名人の不倫ネタだ。
2016年のはじめ、音楽バンドのボーカルで既婚者の川谷絵音との不倫が報じられ、約3カ月の活動自粛を経て同年5月に復帰を果たしたタレントのベッキーも、激しいバッシングにあった。
不倫が責められるのは当然のことではある。だが、しょせん自分にはまったく縁のない芸能界の話なのに、なぜそこまでムキになるのだろうか。不倫相手の奥さんへの謝罪がなかったといった批判が渦巻いたが、奥さんがどんな人かもわからないし、そもそも夫婦関係がどうなっていたのかもわからない。
事情もわからないのに、奥さんまで引き合いに出してベッキーを叩く人。それは、果たして正義感で動いているのだろうか。
2020年に開催予定の東京五輪で使用されるエンブレムのパクリ疑惑が大騒動となったのも記憶に新しい。エンブレムに当初採用されたデザイナー佐野研二郎氏のデザインに対して、「ベルギーのリエージュ劇場のロゴに似ている。盗作だ」とし、そのロゴの制作者から日本オリンピック委員会に使用差し止めを求める文書が送られてきた。これにより盗作疑惑が浮上し、盗作を否定する佐野氏も、ついに作品を取り下げざるを得ない事態となった。