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榎本博明「人と社会の役に立つ心理学」

学力の高い子ども、親の習慣や家庭環境に「共通の傾向」…文科省調査で判明

文=榎本博明/MP人間科学研究所代表、心理学博士

 小学6年生のデータをみると、蔵書数が0~10冊の家庭の子どもよりも11~25冊の家庭の子どものほうが学力が高い。それよりも26~100冊の家庭の子どものほうが学力が高い。さらに101~200冊の家庭の子どものほうが学力が高い。201~500冊の家庭の子どものほうが学力はさらに高く、501冊以上の家庭の子どもの学力がもっとも高い。中学3年生でも、まったく同じ傾向がみられた。

 だが、蔵書数は親の社会経済的背景と関係しているのではないかというのは、誰もが思うことのはずだ。データを確認すると、そうした関係は明らかだ。社会経済的地位の高い親の家庭ほど、つまり学歴や収入が高い親の家庭ほど蔵書数が多くなっている。そうなると、家庭の蔵書数の多いことが子どもの学力を高めているわけではなく、親の学歴や収入の高さが子どもの学力を後押ししているだけだということになる。

 しかし、さらにデータを確認してみると、どうもそういうわけではないようだ。

 社会経済的背景を統制しても、家庭の蔵書数と子どもの学力は関係している。つまり、学歴や収入の低い層でも、高い層でも、それぞれの層のなかでは、蔵書数が多い家庭の子どもほど学力が高いという傾向がみられたのだ。
 
 やはり、家庭の蔵書数が多いほど子どもの学力は高いといった傾向は明らかにあるようだ。

家に本をたくさん置けばよい?

 
 そうなると、家に本をたくさん買い込んで、子どもの目につくところに置いておけばよいと思う人もいるかもしれない。だが、親が「本を読みなさい」「本はためになるのよ」などと言って、次々に本を買い与えてくるのが苦痛で仕方がなかった、そのせいで本が嫌いになった、という声もしばしば耳にする。思い当たる人もいるはずだ。

 そこで浮上するのは、親自身が知的好奇心をもって暮らしているかどうかということだ。

 蔵書数の多い家庭の子どもほど学力が高いという傾向、そして文化施設に子どもと一緒に出かける親の子どもほど学力が高いという傾向を合わせて考えると、親自身の知的好奇心の強さが子どもの学力の高さに影響しているとみるのが妥当だろう。

 つまり、蔵書数の多い家庭は、親自身が知的好奇心が強く本をよく読むため、その結果として家庭の蔵書数が多くなる。さらに、子どもと一緒に美術館・劇場や博物館・科学館、図書館といった文化施設に行こうと思う。そのような親の心理傾向が子どもにとって知的刺激に満ちた環境を生み出すのである。

 自分は本をほとんど読まないなあという人にとっても、美術館や博物館に行くことなど滅多にないなあ、図書館にもほとんど行かないなあという人にとっても、ある意味ではショッキングな知見かもしれない。

 しかし、自分は本も読まず、文化的施設に行くこともないのに、子どもに「本を読め」「知的好奇心をもて」と言っても説得力がない。それでは、いくら子どもに「勉強しなさい」「本を読みなさい」と言っても逆効果にしかならない。

 まだ子どもが小さいのであれば、一緒に図書館に出かけて本を読む習慣を親子ともどもつけるのもよいだろう。「子どもが小さい頃、絵本の読み聞かせをした」という親の子どもほど学力が高いことも示されている。

 こうしてみると、わが子の学力を高めたいと思うなら、まずは親自身が知的好奇心をもち、知的刺激を求めるように心がけることが大切といえそうである。
(文=榎本博明/MP人間科学研究所代表、心理学博士)

榎本博明/心理学博士、MP人間科学研究所代表

榎本博明/心理学博士、MP人間科学研究所代表

心理学博士。1955年東京生まれ。東京大学教育心理学科卒。東芝市場調査課勤務の後、東京都立大学大学院心理学専攻博士課程中退。川村短期大学講師、カリフォルニア大学客員教授、大阪大学大学院助教授等を経て、MP人間科学研究所代表。心理学をベースにした執筆、企業研修・教育講演等を行う。著書に『「やりたい仕事」病』『薄っぺらいのに自信満々な人』『かかわると面倒くさい人』『伸びる子どもは○○がすごい』『読書をする子は○○がすごい』『勉強できる子は○○がすごい』(以上、日経プレミアシリーズ)、『モチベーションの新法則』『仕事で使える心理学』『心を強くするストレスマネジメント』(以上、日経文庫)、『他人を引きずりおろすのに必死な人』(SB新書)、『「上から目線」の構造<完全版>』(日経ビジネス人文庫)、『「おもてなし」という残酷社会』『思考停止という病理』(平凡社新書)など多数。
MP人間科学研究所 E-mail:mphuman@ae.auone-net.jp

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