それに対して、母親の場合は、小学6年生でも中学3年生でも、そして国語でも算数・数学でも、「就業していない」家庭の子どもの学力がもっとも高く、「16時より前に帰宅する」家庭の子どももそれに準じて学力が高い。父親の場合とは逆に、「22時以降に帰宅する」家庭の子どもの学力が著しく低くなっている。
このように、父親が単身赴任しているほうが子どもの学力は高く、父親の帰宅時間が遅いほうが子どもの学力が高い。そして、母親は単身赴任していないほうが子どもの学力が高く、母親が就業していないか帰宅時間が早いほうが子どもの学力が高い。
こうした調査結果が、わりとラフなかたちで紹介されたため、世の教育熱心な親たちの間では、「子どもの学力向上のためには、母親は家庭にいるほうがよいが、父親は家庭にいないほうがよい」といった短絡的な認識が広まってしまったようだ。
だが、それは明らかに勘違いだ。なぜか。それを次に解説しよう。
勉強に集中するには父親は邪魔になる?
これまでに紹介した調査結果から、単身赴任や残業などで「父親が家庭に不在がちな場合ほど子どもの学力が高い」というのは事実である。そして、「母親が家庭に不在がちな場合ほど、子どもの学力は低い」というのも事実である。
そこから、父親の存在は子どもの勉強の邪魔になる、どうも父親がいると子どもは勉強に集中できないようだ、というように受け止められた節がある。そうなると、父親はできるだけ家庭に不在がちにしたほうがよいということになる。
だが問題は、父親の不在が学力の高さの原因になっているのかどうかという点である。あるいは、母親の不在が学力の低さの原因になっているのかどうかという点である。そこには別の要因が働いているのではないだろうか。
この調査では、保護者の社会経済的背景についても調べ、保護者の学歴や収入を考慮したデータ集計も行われている。それをみると、父親に関しては、社会経済的地位が高い家庭ほど、つまり世帯年収と保護者の学歴が高いほど、帰宅時間が遅いといった傾向がみられる。
一方、母親に関しては、社会経済的地位が高い家庭ほど、つまり世帯年収と保護者の学歴が高いほど、就業していない比率が高いといった傾向がみられる。