さらにいえば自分が着る服や履く靴が世界のどこかで貧しい子どもたちがつくっていること。そういうふうに、自分が口に入れるもの、着るもの、生活の全体が自分たちの目が届かないところ、知らない世界によって支えられており、逆にいえば、自分たちには自分たちの生活を自分自身では何もつくることができないという一種の無力感が、彼女たちの行動の原動力になっている。
つまり、自分たちの生活をどれだけ自分たちでつくれるのか、という生活実験をしてみたという気持ちが彼女たちに共通しているのである。
3.生活実験
生活実験という言葉は、本書をつくる過程での取材で何度か聞いた言葉である。「okatteにしおぎ」は、ある女性が、自宅を改装してコミュニティキッチンをつくり、赤の他人が会員となって、みんながひとりひとり料理をつくってみんなで一緒に食べるという活動とするコモンスペースである。今では料理だけではなく、映画上映とか各種のワークショップとか、いろいろな活動をしている。会員も100人を超えた。ある会員は、これは生活実験だねと言ったという。
都心近くの墨田区で、古くは町工場や倉庫がたくさんあった地域で、「喫茶ランドリー」という場所をつくった事例も「実験だ」と主宰者の女性は言う。喫茶ランドリーとは、コインランドリーのまわりにカフェをつくり、さらにそこに来た人が何をしてもいいという場所である。パソコンで仕事してもいいし、子どもがうろうろしていてもいいし、パンをこねてもいいし、歌声喫茶にしてもいいし、ディスコにしてもいい。自分がつくった雑貨を売ってもいい。「ノールール」をコンセプトにして、まったく自由に場所を使ってもらったところ、近所の新しいマンションに住むママたちを中心に近隣の人々がその場所を使いこなしたのである。
okatteにしおぎと喫茶ランドリーに共通しているのは、家事を家の中から解放するという点である。仕事だけしている男性には気づきにくいが、家事や育児は家の中という閉鎖空間の中で行われることが多いために、特にマンションに住んでいると、女性は鬱屈しストレスを感じる。食事をつくろうと、パンをこねようと、洗濯をしようと、ミシンをかけようと、パソコンで仕事をしようと、誰も見ておらず、誰もその仕事を評価しない。これがけっこう孤独感をもたらすらしいのだ。