ナメクジやミミズといった地味な生き物や、ナマケモノやカメなどのにぶい生き物。カッコイイとは言い難いこれらの生き物たちは、実は人間の知識の及ばない進化を遂げていたり、すごい一面を持っている。
『ナマケモノは、なぜ怠けるのか? 生き物の個性と進化のふしぎ』(筑摩書房刊)は、農業研究に携わる傍ら、雑草や昆虫など身近な生き物に関する著述や講演を行っている静岡大学大学院教授の稲垣栄洋氏が、一見「つまらない」と思われる生き物たちに焦点を当て、そんな生き物界の脇役の生存戦略を紹介する。
ナメクジが殻を脱ぎ捨てることによって手にしたものとは?
よくかわいいイラストのモチーフにされたり、マスコットに使われたりと人気者のカタツムリに対して、殻があるかないかだけの違いだけなのに遠ざけられがちなのがナメクジだ。
殻のあるカタツムリと殻のないナメクジ、どちらがより進化した形なのか。人間などの脊椎動物には、体の中に堅い骨がある。一方、昆虫やカニのように体の外側を堅い殻で覆う生き物もいる。貝の仲間は体がやわらかい軟体動物なので、貝殻で身を守る必要がある。しかし、その軟体動物の中には、進化の過程で貝殻を脱ぎ捨てるものもいる。たとえば、イカやタコ。彼らは進化する過程で殻を脱ぎ捨て、自由自在にすばやく泳いだり、岩陰に身を隠したりすることを可能にした。つまり、イカやタコは殻を脱ぐことで進化を遂げたのだ。
では、ナメクジはどうか。実は彼らはカタツムリよりも進化した形といえる。でも、なぜ身を隠すための大切な殻を失ったのだろうか。カタツムリの殻を作るためには、相当のエネルギーと炭酸カルシウムが必要になる。よく雨上がりにカタツムリがブロック塀に集まっているのは、ブロック塀をかじって炭酸カルシウムを摂取しているからだという。つまり、殻を持つことは簡単ではないのだ。
一方、ナメクジは殻を持たないので、殻を作るためのエネルギーを使って早く成長できる。さらに、狭い場所にも入っていくことができるので身を守ることもできる。また、炭酸カルシウムを摂取する必要がないので、エサを選ぶ必要がなく、どのような場所でも生きていくことができる。まさに殻を捨てたことで自由を手にしたといえる。
◇
地味でつまらないと思われがちの生き物たちも、その生態や進化の過程を知ると、興味深く、面白い生物であるとわかる。本書からそんなつまらない生き物たちの進化や生存戦略を知れば、さまざまな生き物の見方が変わるはずだ。(T・N/新刊JP編集部)
※本記事は、「新刊JP」より提供されたものです。