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ここがヘンだよ『リーガルハイ』~古美門暴走の法廷シーン、裁判官の年齢に執務室

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●「差し支え」に「しかるべく」~法廷でのお作法あれこれ

 古美門は法廷内でさまざまなパフォーマンスを展開する。第2期の第1話では、証言台の上に土足で上がってしまったが、あれをやったらまず間違いなく退廷を命じられる。古美門は法廷の椅子にふんぞり返ったり、ゆらゆら揺らしたり、ぐるぐる回ったり、裁判官の質問に座ったまま答えたりもしているが、筆者は法廷で弁護士が背もたれにべったり寄りかかって座る姿というのをほとんど見たことがない。

 裁判官と話をする際には、必ず一度立ち上がってから発言する。訴訟進行について、裁判官から「これでどうでしょうか」と提案され、それでOKという場合は、すっくと立ち上がって「しかるべく」と答える。次回の弁論や弁論準備の時間を決める際、裁判官に「何月何日の何時はいかがですか」と聞かれ、それに答えるときもいちいち立ち上がる。都合が悪い場合は「差し支えです」という用語を使う。決して「都合が悪いです」とは言わない。

 かつて商工ローンのSFCG(09年4月21日破産)が支配人制度を濫用し、手形訴訟の法廷に支配人登記をした実質平社員を大量に送り込んだことがある。SFCGは融資実行の際、私製手形に署名をさせ、1回でも支払いが滞ると、即座に私製手形を原因証書にした手形訴訟を起こしていた。

 この私製手形は「おもちゃ手形」と呼ばれていた。一般的に使われる約束手形は支払い地に記載されている銀行に持って行けば現金化できるが、SFCGの手形の支払い地の欄にはSFCG本社所在地が記載されていた。当然、銀行に持って行っても換金できない。

 民間企業が民間人に貸したお金の取り立てのために、借り手の資産に強制執行をかけるには、その金銭債権の存在を裁判所に認めてもらう手続きが必要になる。これを債務名義といい、強制執行をかける際の必須条件となっている。SFCGは債務者や保証人の資産に強制執行をかけるため、膨大な件数の手形訴訟を起こしていた。

 手形訴訟は簡単な訴訟で、手っ取り早く債務名義が取れる。いちいち弁護士に頼んでいたらコストがかかるので、実質的な平社員を大量に支配人登記して出廷させていたのである。法人が訴訟を起こす場合、弁護士を使わない場合は、原則として代表取締役が出廷しなければならないが、支配人登記をしていれば、支配人でも出廷可能とされている。商社など、支店が多くある会社のための制度といえる。その“なんちゃって支配人”たちが、法廷で黒い手帳を見ながら「差し支えです」などと専門用語を連発していたので、弁護士の間では失笑を買っていたのである。

 ちなみに、一時期は東京地裁の手形訴訟担当部署が、SFCGのために仕事をしているような状態になったほどで、当該部署の部長判事の大英断により、SFCGの手形訴訟を受け付けない方針を打ち出し話題になった。

 以上見てきたように、ドラマに出てくる法廷シーンは、現実の裁判とは大きくかけ離れている。実際の裁判を忠実に再現したドラマなど、まったく面白くないだろうが、ドラマの影響で法曹界に幻想を抱き、将来この道に進んだ後でショックを受ける若者が出てこないように祈りたい。
(文=伊藤歩/金融ジャーナリスト)

BusinessJournal編集部

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