Mac、なぜ“優れモノ”レッツノートのシェア侵食?マーケ戦略でみる商品力
例えば、ファッションでいうと、ハイブランドは飛び抜けて情緒的価値を提供するものだが、スポーツやアウトドアのウェアは性能や着心地といった物質的価値が重要になる。どちらがいい悪いというわけではなく、商品というのはそうした両面の価値のバランスのもとに成立する。
マーケティングの視点から商品の価値を考察する時は、いつもこの2つの価値を意識する必要がある。商品のマーケティング戦略に応じて、2つの価値のバランスを最も適した状態にすることが成功には欠かせない。
●情緒的価値のMac、物質的価値のレッツ
Macはそのスタイリッシュなデザインや機能美で情緒的価値を押し出している。従来のビジネスユースのモバイルPCではさほどプッシュされてこなかった価値である。それがビジネスシーンでのMacの拡大につながっていると分析する。
一方のレッツは物質的価値が売りである。実装から組立まで、フルで“Made in Japan(神戸)体制”を構築し、ユーザーの声を製品づくりにスピーディーに反映できる。加圧振動や落下、ヒンジの耐久など数々の過酷な試験を施し、「頑丈さ」を実現している。満員電車での揺れや圧迫、デスクからの落下などビジネスユースでは頻発する「アクシデント」を想定している点は、頭が下がる。バッテリーの持続時間もMacの倍以上である。
つまり、情緒的価値ではMacに軍配が上がるが、物質的価値にかけてはMacはレッツの足元にも及ばないであろう。
それでもMacのユーザーが増加しているということは、モバイルPCに情緒的価値を人々が求めるようになってきたということであろう。もはや機能面だけをプッシュすれば売れる時代ではないのである。それを使っているときの「気分」「ステイタス」「満足感」――従来のモバイルPCでは重視されていなかった価値である。
Macがビジネスユースに支持されるようになったその他の理由としては、マイクロソフトのオフィスソフトウェア「Office」のMac版販売や、ブートで同社製OS「Windows」が起動できるようになった点が大きいことも付け加えておく。やはり「情緒」だけではダメで、「物質(機能)」も必須なのだ。
もしも、マイクロソフトがアップルへOfficeを供給していなければ、ビジネスシーンでMacはここまで広がらなかったであろう。以前アップルが業績不振の際、マイクロソフトに身売りするという話があった。結局この買収話は実現しなかったが、IT業界にとってはよいことだったと思う。マイクロソフトの下でアップルがスマートフォンをつくるとは考えにくいからだ。
競争があってこそ市場は活性化する。切磋琢磨しない業界は、市場自体の成長が鈍化するのだ。