振り返ると、日本の携帯電話事業における新規参入は、2005年のイー・モバイル以来13年ぶりだ。それでも石川氏は、大手3社による寡占状態を楽天が崩すのは容易ではないと推察する。
「大手3社が、いきなり楽天の影響を受けることはないと思います。13年前にイー・モバイルが参入したときも第4のキャリアという立ち位置で、業界に価格競争を起こし、各社の料金プランが安くなるのではと期待されていました。しかしイー・モバイルは結局、他の3社に肩を並べるほどの成果を残せず、2013年にソフトバンクに買収されてしまったのです。
イー・モバイルが存在した頃は、これから携帯電話やスマートフォンの産業が伸び、どんどんユーザーが増えてくるというタイミングでした。それにもかかわらず、イー・モバイルは会社として消滅する結果になりましたし、今では大手3社の競争も終わっているようなもの。今後、携帯電話市場が成長する見込みがあるかというとそうではなく、13年前と同様、楽天は苦戦を強いられるのではないでしょうか」(同)
ほかにも、楽天の戦略を疑問視する意見は多い。楽天は2025年までの7年間に、6000億円の設備投資を計画しているそうだが、これは他のキャリアが1年間に費やす金額と大差ないのだ。他社の7分の1ともいえる低コストを、石川氏はどうとらえるのか。
「地図を示して『このエリアは電波をカバーしています』と見せるのは簡単かもしれませんが、それは地上に限った話。大手3社は今、地下鉄に乗っていても通信が途切れなかったり、離島や洞窟の中でも回線がつながったりするくらい、あちらこちらで電波を発しています。楽天がそこまで徹底しようとすれば、6000億円あっても全然足りないというのが私の考えです。
また、サービス開始までの準備期間の短さも懸念材料。一番重要なのは基地局ネットワークの問題で、東京都内にはもう、アンテナを置ける場所がほとんど残っていません。楽天は東京電力グループと組み、その設備を利用すると言っていますが、それでカバーできるのは郊外だけです。都心部でのネットワーク構築にはまだ手がついていないでしょうし、この先の約1年半でビルのオーナーに交渉して、そこの屋上に基地局を建てるというのは、時間的に厳しいでしょう」(同)