なぜスマートウォッチは売れないのか?「質」の重要性を認識できないビジネス界
ただ、これだと誰でもイメージできます。そこでの成功の鍵は「つながることで作用がどれだけ大きくなるか」。換言すれば「作用が大きくなるつなぎ方は何か」ということになります。
たとえば、自動車とのコネクテッドを例に考えます。現代の車はハイブリッドカーが主流となっているため、非常に大きなバッテリーを積んでいます。従って、技術的にはエンジンをかけなくてもエアコンをつけることができます。これをコネクテッドの技術で活かすことができれば作用が大きくなりそうです。「酷暑の中、駐車場に向けて歩いていくと、自身のスマートウォッチが体温と発汗量を測定。それが自動で車に伝わり、車に到着する頃には室内が十分に冷えているため、ものすごく快適な状態が実現する」というようなイメージです。真夏の駐車場に止めた車に乗る際の猛烈な不快さと比較すると、この例の「作用」はものすごく大きくなります。
スマートウォッチを子供に持たせれば、スマホ、GPS、扉の鍵などとのコネクテッドで、家に帰ったかどうか、塾に行ったかどうかなどがリアルタイムでわかるでしょう。それによって、親の安心感という大きな「作用」を提供することができるでしょう。
「IoTの技術でコネクテッドが実現し、スマートウォッチの売り上げが拡大する」
この見方だけだとあまりにも稚拙です。しかし世の中はそれだけで騒いでしまう。「作用の大きさ」という重要な視点を加えた戦略が立てられるかどうか。これがスマートウォッチの真の勝ち筋戦略の一つになるのではないでしょうか。
製品の価値を分解し、市場の構造を見極めることで、イノベーションするような戦略をつくり出す。質の高い非常に重要なプロセスといえます。
ビジネス書、ビジネス誌、ビジネススクールなど昨今のビジネスを学ぶ環境は多様化してきました。しかしながら、質(クオリティ)が圧倒的に足りないという矛盾も抱えています。しかも、当事者はそのことに気付いていないし気付く術もない。見方を変えれば、「質の重要性に気付いていないビジネス界」だからこそ、質を圧倒的に高めることが、ブルーオーシャン状態を生み出すチャンスになるといえるのではないでしょうか。
(文=高杉康成/コンセプト・シナジー代表取締役、経営学修士(MBA)、中小企業診断士)