オークションサイトのトラブルといえば、ペニーオークション詐欺が記憶に新しい。ペニーオークションは入札するごとに手数料が掛かる仕組みだが、ボット(自動で投稿・入札をするロボット)による入札を運営側が繰り返し、手数料をだまし取っていたとされる。また、芸能人がステルスマーケティング(広告だと気付かれないように一般消費者に宣伝すること)に関わっていたことでも問題になった。
ペニーオークションのトラブルは、サイトを運営する業者自体が詐欺を働いていたケースだ。一方、ヤフオク! や楽天オークションなどは、業者はあくまでプラットフォームの運営者であり、C to C(Consumer to Consumer/一般消費者同士)の取引が基本。しかし、出品者に詐欺を目的とした業者が紛れ込むこともあるから注意が必要だ。
●オークションに業者が参入して魅力が減退している
そもそも、C to Cによるオークションの魅力は、多彩な商品が出品され、市場に出回っていない逸品がゲットできることや、出品者と落札者の間でコミュニケーションが生まれることにある。しかし、ユーザーが増えるに従い、出品側に業者が進出するようになり、多様性が失われていく傾向が顕著になる。
あるユーザーによると、「メーカー提供の画像を使い家電を売るなど、量販店と変わらない商売をしている業者もいる。さらに楽天市場に出品されている商品をヤフオク!に掲載し、落札された後に楽天市場から購入して商品を送る手法もあります。楽天市場のほうが安いため、その差額で儲けているんです」という。
●詐欺が多発
そして、さらに悪質なのが、落札された商品を発送しないなどの詐欺を働く業者だ。2005〜09年頃まで、ヤフオク! の不正対策に携わった関係者はこう話す。
「ヤフオク! では一時期、カーナビやパソコンなどの高額商品を出品、落札者に入金させた後、商品を送らないという詐欺が横行し、ヤフーはその被害者たちに補償金として年間数億円払っていました」
これに危機感を募らせたヤフーは、ローンの審査システムなどを手掛ける金融エンジニアリング・グループと組んで不正検知モデルを開発。詐欺出品の可能性が高い商品を絞り込み、最終的に人の目で判断するという、「不正検知モデル+有人監視」のハイブリッド方式により、詐欺グループを減らすことに成功したという。
●不正への対処にオークションサイト運営側は消極的
しかし、前出の関係者は、こうした不正への対応に消極的な姿勢が業界全体に蔓延していること対し、不安感を持っているという。
「C to Cのオークションサイトを運営している各社は、“自分たちは商談の場所を提供しているだけ”という意識が強い。広告を出して宣伝するなどユーザーを増やす施策には前向きですが、不正対策に予算をかけるモチベーションが低いんです。不正対策は『後ろ向きの対策』だと思っているんですね。ヤフオクの場合は、対策を打たなければ立ち行かなくなるところまで追い込まれ、そこでようやく本気で取り組みましたが、逆にいえば、そこまでいかなければ本腰を入れなかったと思います」
つまり、業界には「トラブルが起こってから対処すればOK。それまでは、どんどんサービスを拡大しよう」という思惑があるということだろうか。しかし、これは本来ならば順序が逆で、詐欺が起こる前から対策しておくのが当然の責任のはずだ。問題が顕在化してから対策を打つのでは、だまされる人が減ることはない。
インターネットのサービスはなんでもそうだが、あるサービスがローンチ(新規立ち上げ)されると、まずはアーリーアダプターと呼ばれるユーザーたちが使い始め、比較的良心的な場が醸成される。しかし、人口に膾炙(かいしゃ)し、ライトユーザーが増えてきたタイミングで悪質業者が紛れ込み、トラブルが発生する。そのカモになるのは、ライトユーザーたちだ。
前出の関係者は、「クレジットヒストリー(カードの履歴。信用情報の照会に使われる)の詳細を公開し、オークションサイトの運営会社が詐欺業者を見分ける仕組みをつくったらどうか」とも提言している。少なくとも、「不正をなくす」ことが、長期的にユーザーを増やす「投資」になることを肝に銘じてほしい。
(文=黒崎さとし)