チャレンジ・システムの導入費用は、数千万円程度。これには、合計6台のカメラと数台のデータ処理/CG作成用のコンピューター、そしてそれらの設置・撤去と、実際に作業を行う専任のオペレーターまでが含まれるということだ。結構な金額であることは確かだが、戦闘機一機が数百億円する、天文額的な軍事関連製品から比べれば低価格。大きなスポーツ大会であれば、十分導入できるレベルに抑えられているといってよいだろう。
言うまでもなく軍事技術の要求水準は非常に高く、またその諸条件は困難を極める。もちろん、そのために価格は高騰の一途をたどっている。しかし、昨今の経済事情の中では、このような産業分野であっても、コスト低減もしくは市場拡大の模索が求められつつある。そのひとつの答えが、このテニス界におけるチャレンジ・システム導入なのである。
掃除機ルンバは爆弾処理技術?
例えば、最近人気となった自動掃除ロボット「ルンバ」も、米国の軍需企業が生み出した製品。製造元であるボストンのアイロボット社は、無人での偵察や爆弾処理技術で高い評価を得ている企業。このように、軍事技術を民生転用し、より広い市場をターゲットとし、ビジネスを成功させるケースが近年非常に増えてきている。
カーボングラファイトなどの素材から始まり、缶詰をはじめとするインスタント食品のたぐいやカーナビのGPS。果ては瞬間接着剤も、もともとは軍事用に開発されてきたもの。今では誰もが当たり前に利用しているインターネットだって、スタート当初は軍事用の通信網であったのだ。
いま我々がカーボンシャフトのゴルフクラブの恩恵にあずかることができるのも、携帯電話でメールをやりとりできるのも、過去の軍事技術あればこそ。もちろん市場投入当初においては、おのずと高価格になってしまうが、より広い市場を民間に求め、普及が進めば、大量生産と競争原理、そして絶え間ない技術開発による価格低減も期待できる。そのようにして、現在では多くの軍需企業が民間市場に活路を見いだしている。
出遅れる日本
チャレンジ・システムにルンバ。いずれも日本のハイテク企業でも同等以上の技術は開発できそうなものだが、今そのホーク・アイ・イノベーションズは、なんとソニーの傘下なのだという。昨年11年に買収されたのだが、本来であればソニー自らがこういう製品を生み出していくべきと願う日本人は多いのではないだろうか。自動掃除機ロボットも、今では多くの日本企業がこの市場に参入してはいるものの、やはり先駆者の優位性を突き崩すところまではいかない。