また、憲法13条は「すべて国民は、個人として尊重される」ことを権利論の出発点に置き、憲法24条は旧家制度を廃止し「個人の尊厳と両性の本質的平等」に基づく家族法の制定を求めている。
2015年の訴訟のとき、NHKの番組『あさイチ』で井ノ原快彦は「まあ、(姓が)同じでも、一体感がないときもあるからねえ」「他人同士でも一体感は生まれるから」と述べていた。これが国民大多数の素朴な感情ではないか。また、昨年、カンヌ国際映画祭で最高賞のパルムドールを獲得した『万引き家族』は、血のつながりのない“擬似家族”の絆を描いた映画であり、「家族らしさの源泉は一体なんなのか」を観客に突きつけた。
戸籍は本当に必要なのか
世界を見渡しても、現在の日本と同じような戸籍制度があるのは、中国と台湾だけだ。韓国では07年限りで撤廃され、08年に家族関係の登録に関する新たな法律が施行されている。
国民の情報を管理するために、欧米や多くの国で採用されているのは国民一人ひとりに付与されている「国民識別番号」だ。もちろん、国によってその呼び名も運用の仕方も異なる。日本では16年1月から利用が開始された「マイナンバー」がそれにあたる。元大阪市長の橋下徹弁護士は「日本の戸籍は差別問題の根幹」だと言い、現在の戸籍制度に反対している。今の戸籍で、本人の本籍地は簡単に変えることができるが、本人の出生地や先祖の本籍地・出生地は延々と付いてくる。これは被差別地域を確認すること以外に使い道がないという指摘だ。
その上で橋下氏は「婚姻事実や続柄(親子関係)も、ナンバリングシステム(マイナンバー)に組み込めば十分」だと言う。国民の管理ツールとしてマイナンバーをベースにすれば、役所の事務作業もかなり簡素化されるに違いない。それは「家族」ではなく「個人」をベースにする考えであり、選択的夫婦別姓とも一致するのである。
(文=横山渉/ジャーナリスト)