今月16日、自衛隊による米軍などの後方支援を可能とする安全保障関連法案(安保法制)が衆議院で可決され、日本の軍国化につながるとの懸念から国民的な議論を呼んでいる。
しかし、実は法案成立をめぐる騒動に隠れて、すでに政府が“第一歩”を踏み出したことはあまり知られていない。政府はODA(政府開発援助)の方針を大きく転換し、援助対象としてこれまで認めていなかった「軍または軍籍を有する者が関係する場合」でも、開発協力ができるようにしたのだ。
2月10日、「開発協力大綱」が閣議決定された。これは、これまでのODAを定義していた「政府開発援助大綱」を大幅に変更したものだが、「開発援助」から「開発協力」に名称が変更されたのには、大きな意味がある。従来の「援助する側」「される側」という関係から、対等に「協力」をしていくという姿勢の変化を示している。さらに協力対象には、これまでは対象にならなかったODA卒業国(一人あたり所得が一定の水準となった国)でも、脆弱性を抱える国へは援助を行う方針を打ち出した。
また、「対象国の成長を通じた貧困の削減」を強く打ち出している。これとともに、開発協力は政府が呼び水となることで、企業や地方自治体、大学や研究機関などさまざまな主体と資金が連携することを目指している。
さらに、従来の政府開発援助大綱では使われていなかった「国益」という言葉が、開発協力大綱には盛り込まれている。「我が国の平和と安全の維持」「繁栄の実現」「普遍的価値に基づく国際秩序の維持・擁護」を「国益」と説明している。これは、安保法制の大本となっている「国家安全保障戦略」(2013年12月17日閣議決定)で述べられている「国益」の考え方だ。
過去にも軍が関係する援助
では、新たにODAの方針転換で認められた「軍または軍籍を有する者が関係する場合」とは、具体的にどのような場合を指すのか。政府は非軍事的協力を基本方針に掲げた上で、民生目的・非軍事目的であれば、「軍または軍籍を有する者が関係する場合でも、その実質的意義に着目し、個別具体的に検討する」としている。想定されるケースとしては、災害援助の際の軍への物資提供、軍病院の改修、軍関係者の民主化研修などが挙げられている。
これだけを見れば、人道的な支援に近く、問題がなさそうに思われる。しかし、専門家は「援助のファンジビリティ(代替可能性)」を危惧している。これは、支援として出したものが流用されたりする危険性を指す。例えば、災害対策で提供した物資が軍用に転用されたりするケースだ。