愛知県名古屋市・豊田市内の4つのエリアで8月1日より開催されている国際芸術祭「あいちトリエンナーレ2019」(主催:あいちトリエンナーレ実行委員会、会期:2019年8月1日〜10月14日)において問題となっていた、企画展「表現の不自由展・その後」の中止が8月3日に発表された。同企画展における、いわゆる従軍慰安婦を象徴する少女像の展示に対して、抗議の声が殺到していたもの。
あいちトリエンナーレの芸術監督を務めるジャーナリストの津田大介氏は、2日午後に急遽開かれた記者会見において、「(少女像の展示は)日本人の心を踏みにじるものだ。即刻中止していただきたい」と語っていた河村たかし・名古屋市長を引き合いに出し、「行政によって認められない表現は展示できないとなれば、憲法21条において禁止されている『検閲』にあたる」などとも語っていたが、同芸術祭の運営スタッフに対する暴力をほのめかすような脅迫電話、テロ予告なども押し寄せていたといい、苦渋の決断となったようだ。
朝日新聞デジタル版が報じたところによれば、あいちトリエンナーレ実行委員会の会長を務める大村秀章・愛知県知事は3日の記者会見で、「行政が展覧会の中身にコミットしてしまうのは控えなければならず、芸術祭じゃなくなる。しかし、諸般の状況を総合的に鑑み、円滑な運営のための判断だ」と述べたという。
さらにその後、3日夕方に開かれた記者会見において津田氏は、「“電突”で文化事業を潰すことができてしまうという悪しき事例をつくってしまった。表現の自由が後退する事例をつくってしまったという責任は重く受け止めている」と述べたという。(朝日新聞デジタル版より)
日本の“文化的成熟度”アピールする絶好の機会だった
この件に関し、あるアート業界関係者は、以下のように語った。
「いわゆる従軍慰安婦問題や徴用工問題、そしていま問題となっている、対韓貿易における“ホワイト国”除外問題など一連の報道で、韓国に対してネガティブなイメージを持つ人が日本国内で増えてしまっているのはわかる。しかし、あいちトリエンナーレの『表現の不自由展・その後』の展示趣旨は、あえて慰安婦問題について肯定も否定もせず、他の場所で撤去され表現の機会を奪われてしまった諸作品を集め、考えるための契機としようというもので、この少女像だけが展示されていたわけでもありません。
撤去された作品のそもそもの制作背景や展示理由はさまざなのでしょうが、それらを改めて芸術祭の場に展示することによって、違う次元からその作品を見ることができる。『展示によって見る者に問いを投げかける』という意味において、まさしくアート作品であったと思いますし、賛否両論があるそうしたアート作品をあいちトリエンナーレのような大規模な芸術際において展示するというのは、芸術に対する我々の理解、日本の文化的成熟の深さを示すものだったのではないか。
それに対して感情的・暴力的な抗議を一方的に投げかけ、展示を中止に追い込んでしまうというのは、ごく一部の韓国人やその団体が対日問題について行っているとされる感情的で一方的な対応と、まさしくまったく同じことなのではないか。多少ナショナリスティックな感想になりますが、今回のような問題含みの作品をあえて展示し、それを続けるというのは、芸術に対する日本の文化的成熟度をアピールする絶好の機会でもあったと思います。そういった意味でも、今回の展示中止は残念だといわざるを得ませんね」
10月まで開催される今回の「あいちトリエンナーレ2019」のテーマは、「情の時代 Taming Y/Our Passion」。英文をストレートに訳せば、「あなたの(我々の)情熱を飼い慣らす」となる。
(文=編集部)