安倍自民“大胆”金融政策、朝日日経は反対、読売産経賛成?
(「Wikipedia」より)
実際、金融政策をめぐる安倍晋三自民党総裁の発言がマーケットを株高、円安に動かしている。安倍総裁が大胆な金融緩和策を訴え始めたのは11月16日の衆院解散前後からだ。「2%、3%のインフレ目標を設定する」「建設国債を日銀に全部買ってもらう」などと、発言をエスカレートさせ、日銀法改正にも言及している。
仮に、建設国債を日銀が直接引き受けることになったら、デフレを脱却できるのか?
今、日銀は買いオペで市場から大量の長期国債を買っている。買いオペでマネーを供給した分を、日銀が短期金融市場の操作で吸い上げず、しかも、デンマークに倣ってマイナス金利を導入、民間銀行が日銀預金で残せないようにすれば、直接引き受けしなくとも同じ効果があるはずだ。
また、日本には戦前に軍部台頭を招いた“高橋財政”(昭和恐慌直後の高橋是清蔵相の財政運営)の負の側面に加え、日銀の国債引き受けを認めた旧日銀法(1942年制定)の苦い経験がある。1947年制定の財政法(5条)は原則として長期国債の日銀引き受けや長期貸付を禁止している。だから、マスコミでは安倍発言は中央銀行の独立性、財政規律の問題として受け取られる。
マーケットの反応は政治における“世論”のようなところがある。“世論”をすべて満足させる政策判断が国を誤らせることはままある。しかし、今回は「かつてとは次元の違うデフレ脱却政策を進める」という意気込みへの反応で、看過してはならないのではないか。
●インフレを未然に防ぐ、中央銀行制度
18世紀後半からの産業革命以来、資本主義経済体制は人口増による需要の拡大を前提にしているといってよい。そして、その結果として起こるインフレを未然に防ぐべく、制度を改善、現在の日米欧主要先進国の中央銀行制度ができあがった。
中央銀行は政府から独立して金融政策を担い、インフレを惹起しがちな政府の財政政策の副作用を抑え、通貨価値を維持するのが最大の役割なのである。近代経済学も、こうした仕組みを前提に理論構築されている。少なくとも、わが日本もバブル崩壊(1990年)直後まではその枠組みの中にあった。
しかし、日本は1995年からデフレに陥り、17年たった今もその泥沼から抜け出せず、出口もみえない。1929年の大恐慌時の米国も猛烈なデフレに見舞われたが、第2次世界大戦の勃発もプラスに働き、10年余りで立ち直ったのと対照的だ。
加えて、日本はすでに人口減の時代に突入、先進国がどこも経験したことのない未知の領域にある。だから、従来のセオリーに捉われず、実験をする以外に道はない。効果がなければ、すぐに方針転換する勇気があればいいのだ。この意味で、安倍発言が問題提起として重要な意味を持つのは間違いない。
もっとも、デフレ脱却は金融政策だけで成し遂げられることではない。大恐慌直後の1933年に米大統領に就いた民主党のルーズベルトは、デフレ脱却へニューディール政策、金融緩和策のポリシーミックスとともに、労働者の賃金引き上げも強力に推し進めた。
だが、安倍総裁は片方しか公約として掲げていない。わが民主党の野田佳彦首相も安倍発言を“禁じ手だ”と批判する前に、サラリーマンの所得拡大策を掲げ、自民党に対抗すべきなのだ。
●新聞各紙の報道姿勢
それにしても、目を覆いたくなるのは新聞各紙の選挙報道だ。国民の最大の関心事が“経済”という結果が出ているのに、デフレ脱却策を最大の争点として扱わない。TPP(環太平洋連携協定)参加問題などがどうでもいいというわけではないが、これからの日本を左右する喫緊の課題とは言えない。