こうしたホテル税を導入しても、観光客が減少するという負の現象は起きていない。むしろ、観光客もホテル税収も増加を続けている。ホテル税という新たな財源に目をつけている地方自治体は数知れず、なかでも外国人に人気の観光都市では「バスに乗り遅れるな!」とばかりにホテル税の導入を急ぐ。
今年11月からはスキーリゾート地のニセコを抱え、外国人観光客が殺到している北海道倶知安町でも宿泊料金に2パーセントを上乗せするかたちでホテル税を導入する予定だ。
本来、増税や新税導入には慎重になる政治家たちだが、ホテル税は主にターゲットを外国人観光客におき、有権者に痛税感を伴わないという点からも制定しやすい。そのため、ホテル税の導入をためらう政治家は少ないとう事情もあり、地方自治体はホテル税の導入には積極的だ。有権者からも煙たがられないホテル税は年々税収額を増やしている。それも財政難にあえぐ地方自治体にとってありがたく、救世主のような存在になっている。
法定税化する兆し
ホテル税が金の生る木となった今、その制定をめぐって、県と市が対立する局面も出始めた。福岡ではホテル税の課税主体をめぐって県と市が対立した。外国人観光客が多いのは博多や大宰府であり、そこを訪問する外国人観光客のほとんどは福岡市に宿泊する。そのため、福岡県がホテル税を導入すれば、福岡市のホテルからも多額の税金を得る一方で、ホテル税は県全体に使われる。福岡市としては、市内の事業者から徴税したホテル税は福岡市内に還元したい。
そんな思惑の違いは、今春の福岡県知事選にも飛び火した。県知事選では現職知事陣営と、福岡市長が支援する新人候補陣営による戦いになり、福岡の政財界は真っ二つに分裂した。知事選は現職知事が当選したが、福岡県と福岡市の対立は話し合いによって解決を見ることになった。
福岡のホテル税は一人一泊2万円未満の場合は福岡県が50円、福岡市が150円を課税する二重課税で話がまとまりつつある。福岡県内であっても、福岡市外のホテルなら県のホテル税200円だけが課税される。
都道府県と市区町村によるホテル税の二重課税は、今後も増えそうな気配が漂う。たとえば、現在は京都市が制定しているホテル税だが、京都府でもホテル税を導入するとなったら、府と市が対立するだろう。
無用な軋轢を排除することや条例制定の手間を省くことを目的にして、ホテル税を法定税化する兆しも出始めている。法定税化されれば、全国どこに宿泊しても一律に課税されることになる。同税は主に外国人観光客をターゲットにしているが、だからといって日本人に課税されないわけではない。
ホテル税の法定税化は、つまるところ増税を意味する。
(文=小川裕夫/フリーランスライター)