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高安雄一「隣国韓国と日本の見方」

日韓共に「WTO勝訴」主張、日本勝訴と考えるのが自然…韓国政府、発表で是正勧告に触れず

文=高安雄一/大東文化大学教授
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 日本が勝訴と宣言した理由は、韓国に対しアンチダンピング課税措置の是正が勧告されたことによるものであり、もちろんその背景には核となる主張が認められたことがある。一方で韓国が勝訴を宣言した根拠には、韓国が争点としているもののうち、日本の主張が認められなかった、あるいは判断がなされなかったものが多いことがある。

 韓国政府が公表した報道資料には、各争点に対する勝敗を示す表がある。この報道資料によれば、韓国が示している13の争点のうち9つの争点について韓国が勝訴、1つの争点でも一部勝訴している(報道資料では争点ごとに勝訴・敗訴などの結果が記されている)。韓国は論点のうち、日本の主張が認められなかったもの、判断がなされなかったものを勝訴と位置づけている。そして、勝訴したとする争点の数が多いことをもって全体でも勝訴したと主張しているようである。

 報道資料で示された13の争点は、あくまでも韓国政府による整理であり、その勝敗についても韓国政府の判断であるが、仮にこれが正しいとしても、争点での勝敗数で全体の勝ち負けが決まるわけではない。重要な点は、措置の是正が勧告されたかであり、報道資料ではこの点は触れられていない。

ボールは韓国政府に

 もっとも重要な点は、WTO協定上、アンチダンピング課税が認められるためには、「ダンピングがあること」「損害との因果関係」「損害」「適正な調査手続き」の4つの要件すべてが満たされる必要がある。しかし上級委員会は4つの要件のうち、2点、すなわち「損害との因果関係」「適正な調査手続き」について日本の主張を認めており、措置の是正が勧告された。争点のうち勝った(とする)数が多ければいいわけではなく、4つの要件にかかる争点のすべてで勝つ必要があるわけだ。

 現在ボールを持っているのは韓国政府である。措置の是正を勧告された以上、上級委員会から受けた勧告の履行意思を、上級委員会で報告書が採択した日から30日以内に開催されるWTOの紛争解決機関で表明しなければならない。ただしこの場において、勧告に対して不服などの申し立てはできない。

 韓国政府が妥当な期間内に勧告を履行しない場合、日本政府は対抗措置を講ずることができる。対抗措置は、原則として紛争分野と同一の分野が優先されるが、これでは十分な効果が得られないときは、その他の分野での措置も可能である。いずれにしても、措置是正の勧告が出た以上、ボールは韓国が持っており、上級委員会の勧告に従うか、あるいは日本からの対抗措置もやむなしと判断するか選択する必要に迫られている。

 双方の当事国が勝利を宣言した韓国による日本製空気圧伝送用バルブに対するアンチダンピング課税措置にかかる紛争について、WTOの紛争解決手続においては日本が勝訴したと考えることが自然である。

(文=高安雄一/大東文化大学教授)

高安雄一/大東文化大学教授

高安雄一/大東文化大学教授

大東文化大学経済学部教授。1966年広島県生まれ。1990年一橋大学商学部卒、2010年九州大学経済学府博士後期課程単位修得満期退学。博士(経済学)。1990年経済企画庁(現内閣府)に入庁。調査局、人事院長期在外研究員(ケルン大学)、在大韓民国日本国大使館一等書記官、国民生活局総務課調査室長、筑波大学システム情報工学研究科准教授などを経て、2013年より現職。著書に『やってみよう景気判断』『隣の国の真実 韓国・北朝鮮篇』など。
大東文化大学経済学部高安雄一プロフィールページ

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