「城所さんがカシミヤ案件を拾ってくれたのだ。その後、カシミヤ製品はロシアや東欧に輸出されるようになったが、支払いが振替ルーブル(帳簿上の現金)なので現金はモンゴルに入ってこない。イギリスやフランスへの輸出が本格的に始まって、モンゴルに外貨が入ってくるようになった。それを導いてくれたのが、ここにいる城所さんである」
政府幹部は15年前の出来事を覚えていた。それだけカシミヤ工場建設への無償資金協力は、経済発展に寄与したのである。
日本のモンゴルの交流、さらに深化
「HOKUTO SHICHUSEI」が取り扱うのは、モンゴルのカシミヤメーカーで上位10社にランクされるSORの製品である。エンフーシ氏は「モンゴルのカシミヤは原毛が細く、最高級の品質である。世界の著名なファッションブランドには、モンゴル産カシミヤを使用している例がある」と語る。
日本モンゴル懇話会は、日本人の体型にマッチするようにSOR製品をオーダーメイドで販売する方針を固めている。販路として着目しているのは全国のアパレルショップで、富裕層を中心に顧客を囲い込む戦略アイテムに想定している。
このプロジェクトについて、経団連民間外交推進協会モンゴル委員長を務めた伊藤直彦氏(JR貨物名誉顧問)はどう見ているのだろうか。伊藤氏はモンゴル委員長時代、モンゴルに6回訪問した。「毎回必ずカシミヤ製品を女房や友人へのおみやげに買ってきたが、すごく喜ばれた」と振り返るが、肝心の経済交流については、必ずしも満足できなかったようだ。
「モンゴル側から、いつも言われていたのは『日本はお互いにがんばりしょう、できることをやりましょうと言うが、何も出てこない』ということだ。今回のプロジェクトは具体的に事業を進める内容で、モンゴル政府にもすごく喜ばれると思う。長い間民間経済交流を進めてきた者として、カシミヤ製品のオーダーメイド販売という具体的な事業が実行されることに、個人的にも感謝している」
日本モンゴル懇話会は、モンゴルでの植物工場建設・電気工事・牧畜飼料生産、フィギュア製品輸出、真珠・宝石の輸出、養蜂・蜂蜜輸入、さらに大学生・大学院生の留学斡旋、特定技能人材の受け入れなどにも取り組むという。
(文=小野貴史/経済ジャーナリスト)