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デモ過激化の香港は今、日本軍侵攻下と同レベルの騒乱状態にある…根底に貧富の差への不満

文=甘粕代三/ライター
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香港競馬中止の重大性

 香港における競馬の社会的地位を理解しないと、今回の開催中止の重大さは理解できない。HKJCのステータスの高さは日本を大きく上回る。HKJCは1884年に誕生したロイヤル香港ジョッキークラブが前身で、イギリス植民地時代には香港政庁、ジャーディン・マセソン商会、香港上海銀行を財力と実力で上回り、その主席は影の総督とまで呼ばれた。

 イギリス式のクラブ組織であるHKJCは香港に数あるクラブの中でも貴顕紳士のみが入会できる香港一の名門クラブなのだが、民間慈善団体であるため、利益はすべて福祉に使われ、香港の大学、公的病院などでHKJCの寄付を受けていないところはない。その財源は豊富な売り上げ。売り上げは日本中央競馬会(JRA)の半分弱だが、香港の人口は日本の16分の1の人口750万人。対する売り上げはJRAの半分、つまり1人当たりの購入額は日本の8倍となる。また、昨今競馬と売り上げが拮抗するまでに成長したサッカーくじ、宝くじなどの香港のギャンブルはHKJCが独占し、合計ではJRAに肩を並べるほどの規模を誇る。

 HKJCは「ロイヤル」の冠が付いたイギリス植民地時代は香港総督、返還後は香港特別行政区行政長官を名誉主席に迎えてきた。そして、中国への返還以降、開鑼日(オープニング・デー)には「香港特区行政長官盃」がメインレースに組まれ、行政長官がトロフィーのプレゼンターとして来場することが慣例となっていた。しかし、今年9月1日の開鑼日に行政長官は姿を現さなかった。

「キャリー(林鄭月娥)はなぜ来ない(怒)!」。香港競馬ファンが待ちに待った開鑼日メインレース表彰式の直前、天に轟かんばかりの怒声が木霊した。「逃亡犯引渡条例」改定に端を発した今夏の混乱から、行政長官は来場することができなくなってしまったのだ。

「長官が来場すれば、競馬場で暴動が起きかねない。前任の梁振英は2014年の雨傘運動勃発直後、厳戒態勢のなか来場したが、今回の混乱は14年とは比べ物にならない」(香港競馬記者)

 表彰式は林鄭ばかりか例年なら並び大名のように長官の後に続く政府関係者は1人も姿を見せることなく、HKJC主席の周永建が代行した。旧知のHKJC理事は苦虫を噛み潰した。毎年、売り上げと入場者の記録を更新し続けているHKJCは今年の開鑼日は売り上げ、入場者とも前年割れの不名誉な数字を記録した。「おかげで休みが1日増えたよ」と破顔一笑したのは、馴染みの警備員だけだ。

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