解散の背景には、重工業部門をはじめとするサムスン・グループ全体の業績悪化や、ラグビー部の強力な後ろ盾だったイ会長が昨年5月に心筋梗塞で倒れ、療養生活に入ったことが挙げられる。サムスンは現在、イ会長の長男らにグループの権力継承が進められているが、その過程でマイナースポーツであるラグビーへの支援が打ち切られたのではないかという見方だ。
深刻なのは、このサムスン重工業ラグビー部の解体が、韓国ラグビー界全体にも打撃を与えたことだろう。というのも、実業団チームは製鉄メーカーのポスコと電力会社の韓国電力のみになってしまったのだ。兵役対象年齢の選手の受け皿となる尚武(サンム)と呼ばれる国軍体育部隊ラグビー部もあるが、実業団チームが2つになってしまい、リーグ戦もできない状況が続いているのである。
そんな中で久々の朗報となったのは、10月になって現代(ヒュンダイ)・グロービスが新たにラグビー部の創設を検討しているというニュースだろう。現代グロービスは年間売上高13兆ウォン(約1兆3000億円)の大手物流会社で、現代自動車グループ傘下企業。学生時代にラグビーをしていたという現代自動車のチョン・モング会長も、新チーム設立に関心を寄せているという。16年のリオ五輪から7人制ラグビーが正式種目となるが、メディアは「韓国ラクビー発展の突破口になる」と期待を寄せている。
もっとも、たった1チームが産声を上げた程度で状況が打開されるわけでもないだろう。元サムスン重工業ラグビー部監督で、現在はU-15韓国代表監督のチョン・サムヨン氏も、かつてこんなことを言っている。
「例えば日本がトップリーグを発足させた03年当時、世界ランキングは日本22位、韓国は23位でした。だが、今はどうか。日本はワールドカップ直前に順位を11位にまで上げ、対する韓国は25位にとどまっている。しかも、16年には五輪があり、19年には日本でワールドカップも開催される。我々と日本の力の差は、ますます開くばかりだ」
日本と比べること自体がおこがましいほどに低落している韓国ラグビー。韓国のメディアが日本ラグビーの躍進と人気ぶりに目を背けたくなる理由は、まさにそんなところにも関係があるのかもしれない。
(取材・文=慎武宏)