さらに、発表文の欄外には、「日本銀行が金融機関による株式保有リスクの削減努力を促すため、02年11月から金融機関が保有する株式の買い入れを実施した際に買い入れた株式を16年4月から売却する。売却の規模は15年11月末時点の時価で年間約3000億円となる見込み」である旨が付記されている。
つまり、日銀は16年4月から保有している株式を年間約3000億円売却するが、それが市場に影響があってはいけないので、年間約3000億円のETFの買い入れを行うということで、金融緩和の増加額としては差し引きゼロなのだ。そして、日銀が売却を予定している株式の銘柄は、新たに買い入れを行う「設備投資・人材投資に積極的に取り組んでいる企業の株式を対象とするETF」とほぼ同じものであるということ。保有株式で売却する銘柄をETFで買い入れるということにほかならない。
問題は、これを設備投資・人材投資に積極的に取り組んでいる企業に対するサポートとして打ち出したことだ。日銀の政策目標に設備投資・人材投資は含まれない。しかし、政府が設備投資の拡大、賃金の上昇を声高に企業に要請する中で、日銀としてもこれに協力姿勢を示すべく、この措置を打ち出したのであろう。しかし、金融政策は設備投資や人材投資に効果がないということは、火を見るよりも明らかだ。それでも、こうした措置に打って出たのは、金融政策が限界に来ていることを露呈している。
設備投資・人材投資は金融政策限界の表れか
それは、第2の柱である「量的・質的金融緩和」の円滑な遂行のための措置により明確に表れている。同措置では、日本銀行適格担保の拡充、長期国債買い入れの平均残存期間の長期化、J-REIT(不動産投資信託)の買い入れ限度額の引き上げ――が打ち出されている。
日本銀行適格担保の拡充の発表文には、「量的・質的金融緩和のもとで長期国債買い入れに伴って金融機関が保有する適格担保が減少していることを踏まえ」とある。また、長期国債買い入れの平均残存期間の長期化の発表文には、「長期国債のグロスベースでの買い入れ額が増大することが見込まれることから、(中略)、また、国債の市場流動性を確保する観点から」と記述されている。
つまり、日銀が異次元緩和を進める中で市場から多額の国債を買い入れているため、金融機関が日銀に差し入れる適格担保のひとつである国債の保有が減少し、問題が起こりかけているということだ。そのため、適格担保の範囲を拡大することで、金融機関の国債保有残高の減少による日銀適格担保の減少を回避することを目的としている。
このように、日銀は本来の政策目標である消費者物価への金融政策の効果が表れないことから、金融政策の目的ではなく、金融政策では効果がないとみられる設備投資・人材投資をお題目に含めた。その一方では、異次元緩和の影響で、市場の流動性や金融機関の国債保有減少による問題を回避するため、新たな措置を導入するということ。これは取りも直さず、「現在の日銀の金融政策である異次元緩和が限界に来ていること」を露呈している。
(文=鷲尾香一/ジャーナリスト)