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小笠原泰「生き残るためには急速に変わらざるを得ない企業」

東芝、生き残ることは恐らく難しい…OB&老人経営、改革の意思も勇気もゼロ

文=小笠原泰/明治大学国際日本学部教授

 第三者委員会の調査結果で「今回の不正会計には関わっていない」とされた室町氏は、会長を辞任する意向だったが、西室相談役が翻意させたと本人が15年7月に語っている。室町氏本人は、「社長を続投したのは、忸怩たる思いがある。だが、副社長4人、全部で8人の取締役が退任した。副社長の中には田中社長の後任になるべき人材もいた。そういう人材が退任せざるを得ないという非常に悲惨な状況となった。社長の職務を遂行できそうなのは(私)、申し訳ない言い方だが、私がやるべきだろう」と8月の記者会見で述べたと報道されている。これを東芝への愛社精神と取るか、西室氏の院政と取るかは人それぞれであるが、東芝の新たな船出にふさわしい人選かという点では、首を傾げざるを得ない。

大物OBの影響

 パソコンと原子力が収益の柱とはならず、半導体事業に依存せざるを得ない「6兆円企業」であり、大きなリスクは取れないという東芝の現状を考えれば、外部からの社長招聘ではなく、半導体畑出身の室町氏を新体制の社長に据えるということは、マネジメントの安定性や継続性の観点から、内部的にはわかりやすく説明がつくであろう。

 しかし、その内実はおそらく、西室氏が自身の奔走を公言してはばからず、また、社外取締役や室町氏の選任などに象徴されるような、大物OBの影響があるのであろう。もっとも、こうした事例は東芝に限ったことではなく、かつてのソニーや日産自動車をはじめとして、日本企業ではよく見受けられることである。

 ただし、東芝はその傾向がかなり強く、現役経営陣も受け入れてきたのではないか。当然、OBに悪意はないであろうが、すでに経営陣ではなくオーナーでも大口の株主でもない、責任も取れない人間が、「企業愛」と称して経営に口を挟むという行為は、欧米ではまったく説明のできないことである。

 東芝は、使命の終わった恐竜のような元国営金融会社や、経営のイロハを知らない元国営航空会社などではない。激変の真っただ中にあるエレクトロニクスとICTにかかわる業界で熾烈な競争をしている企業である。そのような「未来形」を必要とする企業の経営に、「過去形」であるOBが強い影響を及ぼすのは、老害であるといえよう。東芝は、10人を超える経営陣OBを相談役および顧問として抱えるといわれる。東芝が過去と決別して再生するためには、この整理が本当の第一歩ではないか。新聞報道によれば、さすがの東芝もこの制度の見直しを検討しているそうである。

 単刀直入にいえば、粛々とお化粧をしながら、新体制という仏を彫ることに専念はしたが、魂が入っていないので本質的な問題を解決できていない。つまり、東芝の本質は変わっていないのではないか。現在の東芝のおかれた状況は、再生とも第二の創業ともいえるはずだが、「再生させるという強い意志」も、「生まれ変わるという勇気」も感じられない。

小笠原泰/明治大学国際日本学部教授

小笠原泰/明治大学国際日本学部教授

1957年生まれ。東京大学卒、シカゴ大学国際政治経済学・経営学修士。McKinsey&Co.、Volkswagen本社、Cargill本社、同オランダ、イギリス法人勤務を経てNTTデータ研究所へ。同社パートナーを経て2009年より現職。主著に『CNC ネットワーク革命』『日本的改革の探求』『なんとなく日本人』、共著に『日本型イノベーションのすすめ』『2050 老人大国の現実』など。
明治大学 小笠原 泰 OGASAWARA Yasushi

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