41件の是正勧告を無視
だが、労使間の協定があれば無制限に労働時間の延長ができるわけではない。36条2項で、「厚生労働大臣は、前項の協定で定める労働時間の延長の限度について、基準を定めることができる」とされている。労基法は、常態化する超過労働の削減を図るために、厚労相に延長時間の限度を定める権限を与えている。
「法律で労働時間の延長の限度を定めずに、厚労相に限度を定める権限を与えたのは、時代の変化や事業の種類などを踏まえた適切な基準の設定が、行政庁によって実現可能と考えたからです」(同)
36協定の締結と届出によって、32条による時間外労働への制限が解除され、使用者は適法に時間外労働をさせることができるようになる。ただ、36協定が厚労相の定めた「時間外労働基準」の枠外だと、労働基準法第32条3項4項に基づき、労働基準監督署長による是正指導の対象となる。
「1カ月当たり45時間が上限とすると、1日平均にすれば2~3時間ということになります。仮に36協定に違反して労働させた場合、32条による制限の解除という効果がなくなり、使用者は32条違反に問われ、刑事上の罰則があります。つまり、支社長や店長など、事業場の責任者には使用者として刑事罰が科せられ、同時に法人に対しても罰金刑が科せられます」(同)
労働時間に関する労働基準法違反事件で検察官送致されるのは、比較的珍しいことだ。佐藤弁護士によると、東京や大阪でもそれぞれ年に数件、全国でも30~40件程度しかないという。
「違反行為が検知されてから検察官送致までの間には、立入り調査・是正勧告・是正報告書の提出といった違反行為是正の機会が与えられています。それにもかかわらず、検察官送致までされているのは、是正勧告に従わない、虚偽の是正報告書を提出する、是正報告書を提出したのに結局是正しないなど、極めて悪質な例に限られています」(同)
実際、ドン・キホーテは2008年以降41件もの是正勧告を受けながら、これにまったく従わなかったという。労働基準法を守る意識がいかに低いかがわかる。いわゆる「ブラック企業」対策のために厚労省が昨年4月、東京労働局と大阪労働局に設置した「過重労働撲滅特別対策班(通称かとく)」による検察官送致は、今回の事例で3件目。労働者を追いつめる悪質な労務管理をしている企業は、徹底的に暴き出されることが今後も期待される。
(文=編集部)
【取材協力】
弁護士 佐藤宏和
事業再生、M&A分野に強いセンチュリー法律事務所の所属弁護士。弁護士登録以前に、ソフトバンク、SBIホールディングス等で子会社の上場や、代表者として子会社を経営した経験を持つ。ソフトバンク在籍中に米国公認会計士試験に合格するなど、会計実務にも通じる。
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