事実、ホワイトハンズのケアにおいてはスタッフの身体に触れたり、脱衣を要求したりといった行為が禁止されている。ケアスタッフの性別は選べても、年齢や容姿の細かい指定はできないという決まりもある。公式サイトには「利用者の性的な快感を、意図的に最大化するような手段や技法を、ケアの過程で用いることは一切ありません」と注意書きされているほどだ。
だが、そんなホワイトハンズの活動方針の一部に疑問を呈する人もいる。障害学を専門に研究している草山太郎氏が『障害者の性へのサポートを考える―ホワイトハンズの理念とサービスの検討をとおして―』(追手門学院大学社会学部紀要)と題した論文を公開しているので参照してみたい。
ケアの最中に“性的興奮を喚起するようなDVDや写真集”で視覚的な刺激を得ることをホワイトハンズがNGとしている件に関して、草山氏は以下の見解を述べている。
「視覚的な刺激を有効に利用することでより効率的に『射精介助』を受けることができる利用者がいる可能性は大いにある。一般的には、それを有効活用して射精を行う男性が多いと思われる。そうであるならば、視覚的な刺激は排除されるものではなく、よりスムーズな射精の実現のために利用されてもいいはずである」
乙武氏が目指したのは“性の自立”か
草山氏が指摘するのは、「性的なサポートから『エロスとしての性』の側面を切り離すことの困難さ」だ。障害者の性欲処理を「射精介助」と呼ぶことで、幾分かクリーンな印象を与えられるかもしれない。しかしここには、まるで障害者が性的な快感を追い求めるのはいけないことかのようなタブー観が見え隠れしているのである。
介護の現場では、QOL(Quality Of Life=生活の質)とADL(Activities of Daily Living=日常生活動作)という2つの概念がある。食事や排泄、着脱衣や入浴などが該当するのだが、障害者の性欲はどう扱われるのだろう。ほかのADL同様、誰かが面倒を見るべきなのか。それとも、満たされているに越したことはないというQOLの領域で済む話なのか。