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渡邉哲也「よくわかる経済のしくみ」

移民だらけの収容島があった!カナダは流入激増で地域社会破壊、欧州では今夏10倍に増幅か

文=渡邉哲也/経済評論家

 一気に加速した移民流入に対するオーストラリアの回答が、前述したクリスマス島である。オーストラリアは、この島に移民収容施設をつくり、移民申請者を軒並み島に移送するという手段をとった。そして、審査をパスした者だけを移民として認定して入国、つまり島以外の本土に入れることを認めたのだ。

 しかし、そのほとんどは不法移民や単なる出稼ぎ労働者などで、自国に強制送還されるケースが相次いだ。

 また、オーストラリアの人権団体が「クリスマス島における移民収容は、人権上の問題があるのではないか」として訴訟を起こしたことがあるが、高等裁判所は「問題ない」との判決を下している。

 そのため、ヨーロッパの一部の国では、「オーストラリアに学べ」とばかりに、島を買う動きが出てきている。その島に巨大な収容施設をつくってすべての難民を送り込み、じっくりと審査を行うというわけだ。

 これに対して、人権団体などから「人権侵害ではないか」という声が上がっているが、世論は必ずしも反対ではない。昨年11月に発生したパリ同時多発テロ事件では、実行犯の数人が中東からの難民に紛れてヨーロッパ入りしていたことが明らかになるなど、難民流入によって治安の悪化を憂う国民も多い。そのため、この動きが現実味を増しているのだ。

5月以降、難民問題が深刻化か

 また、デンマークでは、難民申請者の財産を国が没収できる新法が成立した。デンマークの失業者は、失業手当などの社会保障を受けるためには一定額以上の所持品を売却しなくてはならない。そのため、「難民も失業者と同じ扱いにする」というわけだ。「難民だけが優遇されるのはおかしい。不平等だ」という国民感情の後押しもある。

 同様の法案はノルウェーでも審議中だが、今ヨーロッパは、実にさまざまなロジックで難民問題に対応しているのだ。

 また、難民対策には時期的な問題もある。本来、難民や移民の移動は春から夏にかけて行われることが多い。中東やアフリカからヨーロッパ、つまり暖かい地域から寒い地域への移動となるため、冬の場合は途中で力尽きてしまう危険があるからだ。

 しかし、今は道中で人権団体が毛布や温かい衣類、食べ物などを配っているため、冬に減少するはずの難民が減らなかった。そのため、「このまま夏になると、さらに5倍10倍という数の難民が押し寄せるのではないか」ということで、ヨーロッパは難民対策を協議しているわけだ。

渡邉哲也/経済評論家

渡邉哲也/経済評論家

作家・経済評論家。1969年生まれ。
日本大学法学部経営法学科卒業。貿易会社に勤務し独立。複数の企業を経営、内外の政治経済のリサーチや分析に定評があり、政策立案の支援、雑誌の企画監修、テレビ出演等幅広く活動しベストセラー多数、専門は国際経済から金融、経済安全保障まで多岐にわたり、100作以上の著作を刊行している。

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