西尾市のこうした取り組みはPFIの先進事例として他の自治体やメディアも注目。15年2月には優秀な土地建物の活用事例が表彰される「日本ファシリティマネジメント大賞」の奨励賞に選ばれた。だが、それから市が業務要求水準書などをまとめ、募集要項を公表、15年度に入り応募者やその企画提案内容を徐々に明らかにすると、矛盾や疑問が噴出し始めたのだ。
応募は1社、提案はスポーツ施設中心
15年12月、企画提案書の提出期限が過ぎても応募は「1社」だけにとどまった。市は予定通りその提案内容の評価を、大学教授や市民で構成する有識者会議に諮った後、16年1月に「公開プレゼンテーション」として市民約460人の前で応募者自らが説明する機会を設ける。しかし、そこに招かれた「まちづくり塾」のメンバーは、提案内容を見て「びっくりして、目が点になった」と証言する。
「目立ったのはフィットネスクラブやスケートボード場などのスポーツ施設ばかり。自分たちは子どもや身障者に使いやすい施設は何かなどを話し合ってきたのに。周りも『こんな話は1回も出てきていない』とあきれ、あまりの違いに『息苦しくなった』というメンバーもいた」
市が今回のPFI事業に求めたのは、地区や用途別に分けた8つの「再配置プロジェクト」のうち5つで、3施設以上の新設、改修・解体26施設、運営6施設、維持管理160施設などを含む。それらを市が一括して30年間、SPCに委託する計画だった。全国のPFI事業案件を取りまとめる日本PFI・PPP協会は「それだけの数を一本にまとめて発注する事例は今まで聞いたことがない」と認める。
唯一の応募者となったのは、市内でスイミングスクールやスポーツクラブを運営する民間会社を代表とした計14社による企業グループだ。事業費は市の予定価格を5000万円ほど下回る約327億円(税抜き)で提案。しかしその内容は、温水プールやフィットネスクラブにフットサルコート、そして「エクストリームパーク」と称する「東海地区最大級」のナイター設備付きスケートボード場など、市民の目には「ぜいたく」に映るものばかりだった。合併前の一色町役場跡地には10階建ての市営住宅が提案されたが、先のまちづくり塾メンバーは「海沿いにある中学校が内陸の役場跡地に移ればいい」などと話し合っていたというが、「そんなことはまったく反映されていない。これで市民の声を聞いたと宣伝されるなら、私たちは利用されただけだ」とショックを受けている。
アドバイザーを務めていた名古屋大学の恒川准教授も「スケートボード場などは説明会で初めて知り、正直びっくりした」と漏らす。