西尾市は役所内にプロジェクトチームを設置、各施設の現状のデータを集約した上で、再配置の基本理念や方針を「再配置基本計画」として12年4月にまとめた。その後は公共建築の専門家らを交えた検討会を計12回開いたり、施設の劣化調査を2年がかりで行ったりして、さらに具体的な「実施計画」を14年3月までに策定。再配置の対象は357施設、887棟とし、それらの統廃合による規模圧縮や建物の長寿命化によって「30年間で約731億円のコストが削減される」などと試算した。
こうした市としての意欲や労力、議論の積み重ねはなかなかのものだと素人目にも感じさせる。市のアドバイザーを務めた公共建築の専門家、名古屋大学大学院工学研究科の恒川和久准教授も筆者の取材に対し、「西尾市ほど、このテーマで職員向けに研修を重ねてきたところはない。単純に公共施設の数を減らすのではなく、いかに市民サービスを低下させずに統廃合するかを真剣に議論していた」と評価する。
ところが、こうして高く掲げた理念が、現実的な「手法」の面から厳しく問われることになるのだ。
全国初の方式導入、注目集める
市が実施計画で打ち出した手法は「PFI」、しかも日本初の方式を取り入れた「西尾市方式PFI」と呼べるものだという。
PFIは「プライベート・ファイナンス・イニシアチブ」の略で、公共施設の建設や維持管理、運営に民間の資金とノウハウを生かし、安価で質の高い公共サービスを求める手法だ。イギリスなど先進国をモデルに、日本でも1999年に「PFI法」が制定され、国や全国の自治体が導入。内閣府によれば15年9月末までに全国で累計511件、約4.5兆円のPFI事業が実施されている。
通常は初期投資を民間がまかない、行政は契約の事業期間内に「サービス対価」として事業費を分割で支払う。事業期間は平均18年ほど(2011年時点の総務省調査)で、「30年」は決して極端な長さではない。事業終了後は民間が土地や建物を行政に明け渡す。
事業を担うのは、複数の民間企業で構成する特別目的会社(SPC)。ただし、これまでのSPCは大手ゼネコンやデベロッパーが代表となっていたため、短期的な「ハコモノ」整備には有利だが、長期的な運営や地元企業の参画には不利な面があった。
そこで西尾市は、SPCの代表企業を建設・不動産会社以外の地元企業に任せ、地域に密着した施設運営を優先させる「サービスプロバイダ方式」という手法を日本で初めて採用することにした。また、PFIは民間の「創意工夫」を引き出すため、施設の細かな仕様は問わず、大まかな「性能」を求めて発注する。西尾市はこの「性能発注」の基となる「業務要求水準書」づくりに市民の声を反映させるとして、「にしお未来まちづくり塾」という市民ワークショップを開催。公募の市民約50人が14年度に7回、専門家を交えて意見交換を重ねた。