英国はEUを離脱しない…すでにすべて筋書きされた巧妙なシナリオ、老練な政治家たち
イギリスの国民投票でEU離脱支持派が勝利してキャメロン首相が辞任表明し、次期首相を選ぶ保守党党首選挙が行われた。この党首選は、予備選の段階から意外な展開をみせた。まずは、離脱派のリーダーだったジョンソン前ロンドン市長が、党首予備選への立候補締め切りの直前に「次のリーダーを助けるが、次期首相には私は立候補しない」と演説し、不出馬を表明した。ジョンソン氏は国民投票での勝利後、離脱後の明確な方針や英国の将来像を語ることはなく、離脱支持者の失望を買った。
同じくEU離脱派のイギリス独立党のファラージュ党首が、EUへの拠出金を国営医療制度に充てるという公約を撤回し、「自分の役割は果たした」と言って党首を辞任した。
このような状況のなかで保守党党首の予備選には5人が立候補し、第1回の投票で残留派のメイ内相が大差でトップとなり、離脱派のレッドソムエネルギー担当閣外相が2位、同じく離脱派のゴーブ司法相が3位につけ、この3人が第2回投票に進み、メイ氏とレッドソム氏の一騎打ちとなった。この時点で、サッチャー氏以来の女性首相の誕生が決定し、日本のマスコミを賑わした。ここでレッドソム氏が党首選からの撤退を表明し、無投票でメイ氏の次期党首が決定した。
結果的に7月13日にメイ氏が首相に就任し、ポスト・キャメロン政権成立が予定よりも2カ月早まり、想定された政権の空白期間を終息させた。国内的な混乱への危機感がいかに強いかが表われているといえよう。
しこりを残すことを回避
今回の一連の動きを冷静に分析してみると、無投票でのメイ氏の党首就任は大きな意味を持つ。もし残留派のメイ氏と離脱派のレッドソム氏の間で党首選を行えば、おそらくメイ氏が勝利したであろうが、圧倒的勝利ではなく、残留派と離脱派の溝は深まることになったであろう。少なくとも勝敗が明確になるので、両派の間にしこりを残すことになったはずである。
この意味で、レッドソム氏が党首選から撤退し、無投票で「党や国をひとつにできるリーダーは私しかいない」と主張するメイ氏が次期党首に決まったことは、残留派と離脱派の間の対立構造を再度際立たせることを避けることができたという点で大きな意味があろう。
メイ氏のスタンスは、「Brexit(イギリスのEU離脱)の意味するものはBrexitである」と言っているように、国民投票の結果の尊重である。首相就任早々に「英国をひとつにする」と述べ、イギリスの結束を最優先し、今回の国民投票で鮮明になった残留派と離脱派の対立を緩和しようとしている。