英国はEUを離脱しない…すでにすべて筋書きされた巧妙なシナリオ、老練な政治家たち
民主主義制度を守るという意味では、離脱派51.9%、残留派48.1%という僅差(投票率は72.1%)であり投票後の残留への揺れ戻しが大きいとはいえ、今回の国民投票の結果を反故にするわけにはいかない。たとえ建前であったとしても、それがメイ新政権の出発点である。
EU離脱交渉に関してメイ新政権は、「移民制限とEUの単一市場への参加継続、即ち、これまでと近いEU市場へのアクセス権の保持」という条件をEUから引き出すことに注力するとしている。このモデルは、経済活動にフォーカスしたEUとカナダの間でのCETA(包括的経済・貿易協定)に近い。よりEUに統合されている(人の移動の自由、EU法の影響、EU予算への拠出が付加される)ノルウェーとスイスのEUとの協定では、イギリスがEUから離脱した意味がなくなってしまう(詳細はhttp://www.mizuho-ri.co.jp/publication/research/pdf/insight/eu160419.pdfの4ページを参照)。
しかし、カナダ型を取ったとしても、金融サービスで相当の譲歩をEU側から引き出さない限り、離脱よりも残留のほうがメリットは大きい。イギリス離脱支持派の思い描くシナリオは、極めて良いとこ取りであり、イギリスに都合良く進むと考えるのは難しい。
実際、EUサイドの態度をみると、EU離脱連鎖を止めるために加盟国へ「離脱交渉は極めて困難である」という強いメッセージを送ると考えられ、その交渉は非常に厳しいものになるであろう。
現時点ではイギリスのほうが不利なので、メイ氏は、EUへの離脱通知(EU基本条約50条発動)は来年以降としている。その間に水面下での交渉を行い、通知から2年間という交渉期間を実質的に少しでも長くしようとしている。しかし、EUサイドがこの引き延ばしを拒否して、即刻の交渉を要求する可能性は捨てられない。
高所得の残留支持者には他国へ移住という選択肢
ここまでのメイ氏の行動は予測でき、これ以外の選択肢はないだろうが、新内閣の布陣を見ると、メイ氏のシナリオが読める。外相に離脱派の中心人物であるジョンソン氏、新設のEU離脱相にはデービス下院議員、同じく新設の国際貿易相には離脱派で党首選に立候補したフォックス元国防相を任命している。一方、要の財務相には残留派のハモンド前外相を任命している。
この布陣の示すところは、離脱派と保守派のバランスではなく、離脱派の主導者たちに「離脱を言いだした君たちが、イギリス経済に悪影響を及ぼさないようにEUとの交渉をまとめてこい」ということであろう。常識的に考えて、イギリスがEUとの交渉で自国にもっとも都合のよいディール取引が取れるとは考えにくい。メイ氏も内心ではうまくいくとは思っていないのではないか。