問題は、なぜ日銀が市場の期待を下回る追加緩和を決定したかだ。その理由は、政府が経済対策をまとめるタイミングに合わせて追加緩和を決定し、景気サポートの相乗効果を狙ったことが考えられる。これは決定会合後の声明文でも明記されている。
また、市場環境が安定しているなかで、本当に追加緩和が必要かという議論もあったはずだ。7月に入ってから世界の金融市場は英国の国民投票後の混乱から立ち直ってきた。中旬には米国の株式市場が史上最高値を更新するなど、概ね投資家心理は強気に転じてきた。6月末に利下げなどを示唆したイングランド銀行(英国中銀)も、7月の金融緩和を見送ったほどだ。
そのなかで追加緩和を打ち出せば、後々の政策発動余地が少なくなってしまう。そこで、日銀は国債買い入れなどを温存したのではないか。これは日銀がサプライズの演出を重視していることの裏返しと考えることができる。
政府の経済対策が進むタイミング、事前の市場期待の高まりを考慮すると、これまで以上に現状維持に対する批判、失望が高まり、円の急騰など市場が混乱する恐れもあった。そのため、日銀はETFの買い入れ倍増で株式市場を下支えする姿勢を示し、体裁を取り繕おうとしたのだろう。
限界が意識され始めた日銀の金融政策
事実上1次元のみの追加緩和が決定されたことを受けて、多くの投資家やエコノミストが、日銀は自ら政策の限界を市場に示した、と考え始めている。
これまで、市場参加者は、金融機関が売却できる国債にも限度があるため、日銀が想定通りに国債を買い入れることは難しくなると警戒してきた。これが、札割れリスクだ。また、マイナス金利に対しては銀行、生命保険業界からの批判が強い。
そのため、国債の買い入れ増額とマイナス金利の深掘りが見送られたことを受けて、多くの投資家らが「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」が限界に達したと考えるのは自然な反応かもしれない。
決定会合直後に公表された声明文で、日銀は9月の会合時に経済や物価の情勢、これまでの金融政策の効果を総括的に検証すると記した。これを受けてエコノミストらは日銀がこれまでの金融政策を見直し、新しい枠組みの金融政策を進めるのではないかと考えているようだ。具体的には、マイナス金利の凍結や、年間約80兆円に相当するペースで進められてきた国債買い入れの修正等が想定されているようだ。