「直前に人違いがわかったとか、容疑者が急病の場合ならともかく、(逮捕状の)執行寸前にとりやめ、というのは普通ありえない。しかも、本部の刑事部長が介入して(執行を)止めるなんて、異例中の異例」(落合弁護士)
警視庁のベテラン刑事もこう言う。
「(任意の事情聴取ではなく)最初から逮捕状を取ったというのは、証拠に自信があったからだろう。その逮捕状の執行を直前に止められるなんて、今まで聞いたことがない。高輪署がやっていた捜査を、署長を飛び越えて本部の刑事部長がストップをかけるなんて、ありえない」
そこに、「安倍首相と親しいから」という疑念が生じる余地がある。
「週刊新潮」などによれば、民主党政権の時代に官房長官秘書官を務めていた中村氏は、自民党が政権を奪取した後、菅義偉官房長官に続投を懇願。それが受け入れられ、その後も菅氏の覚えめでたく、将来の警察庁長官にと評価されているとのこと。中村氏は、菅官房長官や安倍首相への忠義立てから、「忖度」したのではないかとの噂も立つが、真相はいまだ闇の中だ。
衆議院本会議で民進党の井出ようせい議員が、捜査経緯について検証することを求めたのに対し、松本純国家公安委員長は「警視庁において必要な捜査が尽くされ、また検察庁で不起訴処分となっていることなども踏まえ、検証を行うことは考えておりません」として、検証を拒否した。
いったい、なんのための公安委員会だろう。
不可解な当局の対応
国家公安委員会のホームページには、その存在意義がこう書かれている。
「この制度は、戦後新たに導入されたもので、国民の良識を代表する者が警察を管理することにより、警察行政の民主的管理と政治的中立性の確保を図ろうとするものです」
森友学園や加計学園をめぐる問題で、「忖度やら圧力やらが働いて、行政機関は安倍首相と親しい人には特別の対応をする」という疑念が広がっているなか、警察活動の「政治的中立性」にまで懐疑的な視線が向けられている。そういう今、検証に乗り出さなくては、公安委員会が存在する意味がないではないか。
刑事部長の介入の後、高輪署の捜査員は担当を外れた。告訴事件は検察へ書類送致しなければならないと刑事訴訟法で決められており、本件は捜査一課が捜査を引き継いで、東京地検に書類を送致された。それから約11カ月後、同地検は「嫌疑不十分」として不起訴処分を決めた。
これについても、落合弁護士は「検察はずいぶん長く(未処理のまま)事件を持っていた、という印象」と語る。検察官は、書類送検されてから3カ月以内に起訴・不起訴を決めて処理をするように言われており、1カ月超えるたびに、それが遅れている理由や事情を上司に報告しなければならない、という。処分を決めるまでに11カ月というのは、確かに長い。
詩織さんは、担当検事から次のように言われた、という。
「準強姦は、第三者がその現場を見ているか、(犯行場面の)ビデオがあるなど、直接的な証拠が必要だ」
これでは、準強姦は扱わないと言っているに等しい。