しかし現実には、そのような直接的な証拠がなくても、さまざまな間接証拠を積み上げて、有罪判決に至っている事件はいくつもある。
検察官は、いったいどういう意図で、このような発言をしたのだろうか。詩織さんの代理人弁護士は、不起訴の理由については検察側から説明を受けていないという。検察がきちんと説明していないのでは、告訴した側は納得がいかないのは当然だろう。
重要となる“補助弁護士”の存在
山口氏は、Facebookで「法に触れることは一切していません」と主張している。詩織さん宛てのメールで性行為があったことは認めているようなので、警察や検察では、同意があったという主張をし、それが調書化されているだろう。
一方の詩織さんは、ホテルの防犯カメラ映像、ベルボーイの証言、さらにはホテルに至るまでのタクシー運転手の証言など、ホテルに入る段階では、自分1人では歩くこともできない状態にあったことを示す証拠を、警察がいくつも収集しているのを確認している、という。
そのほかにも、さまざまな証拠があるはずである。
検察審査会法によれば、検察審査会には捜査機関が集めた証拠をすべて取り寄せ、検察官に説明をさせ、担当の警察官など真相解明に必要な人を呼び出して調査することも可能だ。できるだけ丹念な調査を行い、検察官の処分が妥当かどうかを明らかにするとともに、その理由をできるだけ丁寧に説明してほしい。
そのためにも、大切なのは補助弁護士の存在だ。検察審査会は、法律上の問題点やそれに関する証拠整理などについて、弁護士である審査補助員から助言を受けることができる。審査補助員は議決書の作成にもかかわる。
双方の主張が対立し、それぞれの主張に沿う証拠があって、法律的な観点に沿ってそれらを評価したうえでの判断が迫られる本件でも、補助弁護士が委嘱される可能性がある。委嘱は、弁護士会の推薦に基づいて行われる。
審査補助員の人選によっては、結論にさまざまな臆測や疑念を呼びかねない。かつて、小沢一郎衆院議員の政治団体に関する捜査報告書に虚偽の記載をした検事やその上司が不起訴処分となったのはおかしいとして、市民団体が検察審査会に申し立て、強制起訴にはならない「不起訴不当」となった際には、自身が「不適切な行為」で退職した元検察幹部が、審査補助員に委嘱された。
今回の事件も、政治的な立場によって見方が分かれ、さまざまな臆測や疑念を招く要素がある。それだけに、推薦の依頼があった場合には、弁護士会は人選にはよくよく注意をしてもらいたい。
(文=江川紹子/ジャーナリスト)