大田市場へ移転のメリット
その大田市場は、青果市場として有名だ。規模は大きくはないものの、水産物部門もしっかり設けられている。2014年の実績で、1日当たりの取扱数量は33トン、金額にして3800万円である。敷地面積は約40万平方メートルと、都が開設している11の中央卸売市場で最大。ちなみに、築地市場は約23万平方メートル。
都の関係者からの話では、既存の建物にもまだ余裕があるようで、増築可能な土地もあるという。実際、移転問題に振り回されるのに嫌気がさしたのか、先見の明があってのことか、すでに築地から大田市場に自主的に移転している事業者もいるようだ。
また、6月15日に開催された「市場のあり方戦略本部(第3回)」の会合資料によると、11市場の仲卸業者数は、すべての部門でいずれも減少傾向にあるが、新規参入の数で見てみると、大田市場の水産物部については11年から15年の間に18業者増加している。今年3月に行われた仲卸業者募集でも、新規業者1社が選定されている。
加えて、大田市場は東京国際空港(羽田空港)から至近距離という大きな強みも持っている。東京国際エアカーゴターミナルのホームページによれば、羽田空港貨物ターミナルから大田市場への所要時間は15分とされている。実際に地図で見ても、貨物ターミナルから高速道路のインターまでは単純な経路ですぐだ。ちなみに、築地市場までは倍の30分とされているが、時間帯によっては途中の渋滞の可能性もあり、もう少しかかるのではないか。
さらに、15年度決算額で、施設使用料収入は築地市場の25.8億円に対して大田市場は28.6億円、売上高割使用料も築地市場13.8億円に対して大田市場9.7億円、収入の合計は築市場地39.6億円に対して大田市場38.3億円と比較的近い。大田市場は新規参入を募集できるほど空間に余裕があるのみならず、収入もまだアップサイドを狙うことが可能と考えられ、経営面でも優良な中央卸売市場といえるのではないだろうか。
詳細に調べていけば、築地市場の大田市場への統合を検討すべき根拠は、さらに挙げられると思われるが、これらの事実からだけでも大田市場は第三の道として十分検討するに値するのではないか。真に“都民ファースト”を目指すのであれば、築地か豊洲かという短絡的な発想ではなく、もっと柔軟にさまざまな選択肢を、まさに都民目線で再検討する必要があるように思う。小池知事、そして都民ファーストの会の議員諸氏の良識ある判断はいかがだろうか。
(文=室伏謙一/政策コンサルタント、室伏政策研究室代表)