中国の長者番付トップ、王健林・大連万達(ワンダ)グループ会長が8月下旬、天津国際空港から家族と一緒にプライベートジェットでロンドンに飛び立とうとしていたところ、空港当局から「待った」をかけられ、一時身柄を拘束され、取り調べを受けていたことがわかった。数時間の取り調べのあと、解放されたが、海外への渡航禁止処分を受けたという。このため、ロンドン訪問は中止となった。
王氏は習近平国家主席ら中国共産党最高幹部とも親しいと伝えられているだけに、中国からの出国禁止措置は、王氏に重大な政治的、経済的な嫌疑がかけられていることを示している。中国では最近、党幹部に食い込んでいるとみられる大企業トップが身柄を拘束される事件が続発しており、王氏にも捜査のメスが入ることも考えられる。
王氏は米経済誌「フォーブス」が発表した2015年の「中国の長者番付」トップで、資産は約300億ドル(約3兆6200万円)とされる。ワンダは中国経済が急成長する波に乗り、不動産投資で急速に中国有数の企業グループとなった。その半面、新興企業特有の多額の有利子負債を抱えており、その額は日本円で10兆円以上とされ、債務超過と算定されて、中国政府の指示で銀行からの融資や海外送金が禁止されてしまった。
王氏は15年には不動産の売買から撤退し、グループの経営主体であるホテル、テーマパークのあらかたをライバル企業に売却し、観光や映画などサービス産業へ事業転換する方針を打ち出した。
売却した物件は「北京万達嘉華ホテル」など76ホテルと、今年6月末に黒竜江省ハルビンに開業したテーマパークや商業施設、マンションなどを組み合わせた13の複合型リゾート施設。売却先は同業の融創中国(天津市)だが、「万達(ワンダ)」ブランドはそのまま使用し、運営もグループが手掛ける。
これについて、王氏は「今回でワンダの負債率は大幅に下がる。今後、約3年ですべての借入金を返すつもりだ」と発表し、今後は借入金を大幅に減らしていくことを強調した。しかし、王氏は負債総額についての言及は避けており、実態は不透明だ。
報道によると、負債額は万達商業地産だけでも15年末時点で約1900億元に上る。加えて、海外の映画館やスポーツ関連企業のM&A(合併・買収)に200億ドル(約2兆3000億円)を投資。多くは銀行借り入れで賄っており、以前から経営リスクが指摘されていた。
米国を拠点にする中国問題専門の華字ニュースサイト「博聞新聞網」によると、中国ではすでに銀行・証券など複数の企業を傘下に持つ明天集団の創業者で富豪の肖建華氏会長や、ニューヨークの一流ホテルを買収した安邦保険集団の呉小暉会長ら大物実業家が拘束されていることから、中国当局が次のターゲットとして王氏を狙っているとの観測も高まっている。
中国最大の大富豪であり、習主席とも親しい関係を保っているといわれる王氏といえども、その前途には暗雲が漂っているようだ。
(文=相馬勝/ジャーナリスト)