「独裁者」金正恩の粛清の論理
ロシアとの関係を強化しているようにも見える北朝鮮。2013年には親中派で金正日総書記の側近を務めていた張成沢氏を粛清したが、何か関係があるのだろうか。
「単純な論理です。金正恩にとって張成沢は叔父でしたが、独裁者はそういった関係を嫌うものです。張成沢は父親と同世代で、いわば父親の代わりに自分を監視しているようなものですから。自分が父親に取って代わって絶対的な権力者になりたいのに、親父代わりの監視役がいる。金正恩にとっては目の上のたんこぶであり、独裁者はそういう存在を許しません。
張成沢は父親の側近だったわけですから、どう考えても自分の忠実な家来にはならない。そういった独裁者の論理からすれば、張成沢が消されたのは必然です。彼が消されない唯一の方法は完全に引退することでしたが、そうはしませんでした。
確かに、北朝鮮は昔から体制内の親中派を粛清してきました。金日成政権も同様です。当時、延安派という勢力がありました。延安というのは、毛沢東らが中華人民共和国をつくる前に根拠地にした土地です。そのとき、朝鮮族の共産党幹部が数人いたのですが、朝鮮戦争が起きて中国が北朝鮮を支援したとき、彼らを北朝鮮に帰しました。それが、延安派という勢力につながります。
朝鮮戦争が終わると、『延安派はもういらない』ということで1人残らず金日成に粛清されました。ある意味、北朝鮮が一番警戒しているのが中国であり、常に中国にのみ込まれることを恐れています。同時に、中国をうまく利用しながら、言うことを聞かないわけです。
中国としては、感情的には1日も早く北朝鮮と手を切りたいはずです。さまざまなかたちで援助しているにもかかわらず、ろくに話を聞かないのですから、当然でしょう。仮に金正恩が習近平に無礼を働いたとしても、我慢する以外にない。
しかしながら、先に述べたように、北朝鮮が問題を起こしてくれる状況は中国にとって都合がいい。完全に暴走されると困りますが、ほどよく暴れている状況は、中国にとって一番居心地がいいのです」(同)
次回は、10月の中国共産党第19回全国代表大会を前に権力闘争が激化する中国の現状や習主席の壮大な野望について、さらに石平氏の話をお伝えする。
(文=深笛義也/ライター)
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