日本でも状況は同じで、政権を取った政党が手を付けるべきは、高齢者の社会保障制度の抜本的見直しであるが、シルバー民主主義の日本では、これには怖くて手を付けられない。断行すれば、支持率が急落するのは目に見えている。結果、次の選挙を考えて抜本的なことは何もできず、小手先の対処で終わる。希望の党がもし政権を奪取しても、結果は自民党と同じであろう。
マスコミで取り沙汰されている小池氏の都知事を辞しての衆院選出馬であるが、10日の公示直前までは、本人の出馬は決まらないであろう。出馬は公示前までの盛り上がり方次第であり、自民党過半数割れと踏めば出馬に踏み切るのではないか。
ちなみに、今回の定数は前回より10議席少ない465議席(小選挙区289人、比例代表176人)であり、過半数は233議席となる。改選前の自民党の議席数は288議席。安倍首相の言う勝敗ラインは「与党で過半数」と保身的である。
憲法は改正の方向に向かう
どちらが勝つにせよ、今回の選挙の結果で明確になるのは以下のことだ。
(1)憲法改正については、自民党も希望の党も賛成なので、憲法は改正の方向に向かうであろう。しかし、現行の憲法改正の手続きでは、多くを変えることはできないので、小池氏の言う抜本的改憲をするためには、改憲の手続きそのものを変える必要がある。
そもそも憲法改正に必要な3分の2という国会議員を擁することは稀であり、時間の制約もある。ゆえに安倍首相は今回与党が3分の2を超える状況を利用して、憲法9条の改正を急ぐのである。これを考えると、改憲では両党合意をするが、どう改憲するかで折り合いがつかず、結果として具体的な改憲に至らないというケースも想定される。
(2)今回、都市部での圧勝を狙う希望の党と、地方にとっての生命維持装置的役割として地方の権益を代弁し、それを死守する自民党(自民党の衆議院議員の世襲議員比率は、約4割と非常に高い)という構図により、大規模都市と地方の分断構造が明白になるのではないか。統計上、人口50万人を超える都市は人口増加、逆に下回る都市は人口減少という現象が起きている現状を見るに、勝負は見えているといえなくもないのだが、政治の世界は選挙区ベースなので、分断しても決着がつくまでには時間がかかる。
(3)財政破綻でも起きなければ、財政再建は期待できない。これは、想定された少子超高齢化に対して、根拠のない出生率の回復を期待し続け無策であり続けた政治によって、日本がシルバー民主主義の蟻地獄に陥ってしまった宿命であろう。憲法を改正するのであれば、憲法9条よりもドイツのように財政規律を盛り込んだほうが良いのではないか。
日本の政治に期待するのは、残念ながら幻想であろう。しかし、非合理的なことは長くは続かない。日本が良い方向に向かうきっかけが生まれる可能性もあるので、興味深く今回の選挙結果を見守りたい。
(文=小笠原泰/明治大学国際日本学部教授)