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憲法改正と電通、国民投票の危険な欠陥…巧妙な情報操作でメディアと国民は改憲に傾く

文=黒薮哲哉/「メディア黒書」主宰者
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 もうひとつ大事な点は、テレビCMや新聞広告の業務では、放映や掲載の3カ月ぐらい前から、放送枠、あるいは広告枠を確保する作業に取りかかります。たとえば国会の改憲発議が来年の12月だとすれば、12月の広告枠は9月ごろに確保する必要があります。改憲が発議されてから発注しても、すでに枠が契約済みになっている可能性が高く、遅すぎるのです。

 改憲派は国会での発議の時期を秘密にしておいて、戦略上、水面下で広報活動の段取りを先に進めることもできます。これに対して護憲派は、発議されるという情報を掴んでから動かざるを得ません。国民投票の制度に欠陥があるから、こうした不公平な状況が起こり得るのです。

広告とジャーナリズム

――世論を形成する上で、広告の効果は決定的なものなんでしょうか。

本間 国民投票の際に、有権者が改憲派と護憲派の意見を知るためには、基本的には両陣営の広報活動とジャーナリズムに頼るしか方法がありません。ある自民党の議員が言っていることなんですが、日本では右寄りの人が3割、左寄りの人が2割です。これらの人々は、どう説得してもほとんど考えを変えません。残りの5割の人々が、その時々で判断を変える無党派の人々です。選挙でいえば、浮動票を形成する層です。この5割の浮動票をどう取り込むかを前提として、広報戦略を練るというのです。

 これは広告代理店の考え方でもあります。広告代理店は、たとえばターゲットを年齢別に分けて、それぞれの層で一番人気のあるタレントを選び、シナリオを作成し、いろいろなテレビCMを制作するわけです。それが放映されると、テレビの視聴者は知らないうちにCMの音声や音楽、それに映像を覚え込まされます。もともとテレビCMは、こういう効果を狙っているのです。国民投票では、有権者は改憲に反対か賛成かを判断するだけですから、選択肢が単純です。そのためにテレビCMの影響力は非常に大きなものになります。

――広告費がジャーナリズムに及ぼす影響については、どう思いますか。

本間 国民投票はメディアにとっては大特需になるでしょう。民放連がこの問題にタッチしないのも、広告収入を稼ぐ格好の機会になるからではないかと思います。そうなるとジャーナリズムの論調も、より多くの広告費を支出してくれる改憲派になびくのではないでしょうか。

 私は原発のプロパガンダの取材を通して、そのことを実感しました。2011年3月の東京電力福島第一原発事故まで、年間で約300億円もの広告費が、東電や経済産業省からメディアへ流入していました。その影響なのか、2010年に内閣府が世論調査をしたところ、7割以上の人々が原発政策を支持すると答えています。これは直接の広告効果のほかに、メディアが大口広告主である東電を喜ばせるために、原発を推進する側からの情報を次々とニュースとして流していった結果だと思います。

 また、ニュース番組などでディレクターが、改憲派は好印象の識者を登場させ、護憲派はあまりぱっとしない識者を登場させるなどして、印象操作をすることも可能です。カメラワークによる印象操作もできます。こうしたことは誰も指摘しないだけで、広告主のために日常的に行われていると考えるべきでしょう。

――何か対策はあるでしょうか。

本間 いくつか考えられますが、広告費の上限を設けて資金量による不公平をなくすこと、テレビCMの放映に制限を加え、両派の放映回数を平等にすることなどは絶対に必要でしょう。また、第三者機関、たとえば「国民投票メディア監視委員会」のような組織を設置することも急務かと思います。これに類したものがフランスにあります。ここで国民投票における賛成・反対の広告内容をチェックして、公平な投票の土壌を確保しています。

 幸いに参議院の憲法審査会は、この問題について理解を示しています。誰が見ても制度設計が誤っているわけですから、私はこの問題は党派を超えて理解を得られる可能性があると確信しています。
(文=黒薮哲哉/「メディア黒書」主宰者)

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