仕事と育児が両立できるシステムづくりを
今回の件は民間企業ではなく議会という場で起こったため、行政という視点も交えて考える必要があるだろう。
1999年に妻の介護を理由に大阪府高槻市長を辞職した江村利雄さんのことを思い出さないではいられない。江村さんの妻は98年から骨粗鬆症やパーキンソン病の悪化で寝たきりとなり、「市長の代わりはいても、夫の代わりはいない」とし、市長4期目の任期を1年残して辞職し、当時世間で大きな話題となった。
多くのメディアはこの江村さんの行動を「美談」として扱い、江村さんは妻が亡くなった後も介護問題について全国で講演活動を行っている。だが、私は当時極めて残念に感じた。介護の壁にぶつかった場合、介護を行う配偶者や子ども、その子どもの配偶者、孫も含めて、介護に必要な時間を捻出する。なかには、そのために退職や転職をする人もいる。
行政区の長の立場にある人が介護の現状を見ることができたのであれば、一般市民が親や配偶者の介護を行いながら仕事を続けることができるシステムを、つくることができたのではないかと思ったのだ。現職市長が勇気を持って介護と仕事を両立できるシステムをつくっていれば、高槻市が介護福祉のモデル都市となり、早晩日本全国に波及していた可能性もある。そしてそれは、介護だけでなく育児の現場にも生かすことができた。
今回、緒方市議は「仕事と子育てを両立して女性が活躍できる議会になってほしい」と語っているが、もしも江村さんが高槻市長の職を辞さず、要介護の妻を議場に事前連絡もなく連れて行ったとすれば、何が起こっていただろう。
16年、東京都は待機児童解消を進めるためのシンボル的な取り組みとして東京都議会議事堂1階に「とちょう保育園」を設置し、利用者は都庁職員に限らず、近隣企業従業員や地域住民に定員の半分を開放している。
1人の女性が生涯に産む子どもの数(合計特殊出生率)が1.44となっている現在の日本において、議場に赤ちゃんを連れて行くことが少子化対策や女性活躍のための施策として語られるのではなく、人々が仕事に集中できる環境づくり、安心して子育てができる環境づくりが必要である。
(文=池内ひろ美/家族問題評論家、八洲学園大学教授)