安倍成長戦略、成否のカギは輸出産業育成シナリオ…航空機、医薬品を重点分野へ
前々回のコラムで指摘したように、成長戦略で“輸出拡大”という大目標を掲げねば、円安に歯止めがかからなくなり、アベノミクスのマイナス面が日本経済の足を引っ張ることになりかねない。
殖産興業すべき“輸出産業”は、航空機、医薬品の2分野である。
日米欧主要国の発展は、繊維などの労働集約型産業→鉄鋼などの装置型産業→電気、自動車などの加工組み立て産業という段階を踏んできた。新興国も同じ流れで経済成長を遂げているのだが、成熟した欧米主要国はこの流れと別に強みを保持し続けている産業分野がある。しかし、日本にはそれがない。これが欧米主要国との違いである。
●新興国の参入が難しい分野
違いの第1は、日本には軍需産業が事実上存在しないことだ。第2は航空宇宙産業、医薬品産業、農薬・肥料産業の3分野で強い国際競争力を持つ大企業が存在せず、欧米企業の一人勝ちになっている点だ。
高度な軍事技術が不可欠な軍需産業はもちろん、航空宇宙などの3分野もBRICsの5カ国など新興国には簡単にはキャッチアップできない。人件費の高い成熟国でも引き続き外貨を稼げる分野なのである。
新興国の参入が難しい分野で競争力のある大企業を持たずに、日本が成長の基本的な流れの最後の加工組み立て産業を拠り所にしている限り、いずれ新興国に追いつかれることは当然といえよう。
日本の取るべき道は、欧米主要国が強みを保持している産業分野に食い込み、シェアを奪っていく以外になかった。しかし、1980年代までの貿易摩擦がトラウマになり、バブル崩壊後の90年代以降も輸出拡大を狙った政策が打ち出されることはなかった。
もちろん、第2次世界大戦の敗戦国という立場に加え、国内的にも自衛隊の存在へのアレルギーが依然として強い状況を考えれば、日本政府が軍需産業の振興になど動けるはずもなかったが、航空などの3分野は違ったはずだ。しかし、日本はこの30年間、“奇跡の復興”という成功体験に安住し、惰眠を貪り続けた。
わずかに政府が旗を振ったのは、3分野同様に欧米主要国が依然として強い原子力発電産業だ。そこに2年前の東日本大震災に伴う、東京電力福島第2原発の大事故が起きた。もはや、外貨を稼ぐ成長戦略の目玉に原子力を位置づけることはできない。
日本は、航空宇宙、医薬品、農薬・肥料の3分野で、欧米主要国の有力企業に打ち勝つ国策企業を育てるほかないのだ。3分野のうち、農薬・肥料は日本の農業の現状を考えると難しく、航空、医薬品の2分野に照準を置かざるを得ない。
航空機は、すでに三菱航空機を主体に官民挙げて小型旅客機の開発を進めており、2015年度にも量産第一号機の納入を目指している。ボーイングとエアバスが握る、世界の航空機市場で頭角を現す第一歩になるはずだが、中型機や大型機の開発にも早急に着手すべきだ。それなのに、安倍晋三政権がアベノミクスの第3の矢として打ち出す成長戦略の議論の対象にすらなっていない。
●医薬品で具体策を示せるか
医薬品は、テーマにはなっているが、その議論の流れを見ていると、本筋を外れているように思えてならない。人工多能性幹細胞(iPS細胞)を使った再生医療への支援、医療分野の研究開発の司令塔となる省庁横断的な組織・日本版NIH(米国立衛生研究所)の創設、この2つは薬を輸出するという大目標に欠かせない政策だが、体系的に具体策を打ち出さなければ、期待するような成果は得られないだろう。