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「日馬富士暴行事件を機に、相撲界から暴力と差別を追放せよ」江川紹子の提言

文=江川紹子/ジャーナリスト
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 本件について、「(日馬富士以上に)白鵬に一番非があるという気がしています」などというコメントをマスコミ向けに発している“ご意見番”もいる。あるいは、「被害者の貴ノ岩は白鵬らにとって目障りな人間で、事件も白鵬が日馬富士に目配せしてやらせた」などと書いているメディアもある。これなどは事実と異なっていれば、名誉毀損で訴えられてもおかしくないレベルだ。

「週刊文春」(文藝春秋/12月14日号)は、「『貴ノ岩暴行』本当に悪いのは誰だ? 」という緊急アンケートの結果を公表しているが、1位が白鵬で、2位が日馬富士、3位が貴乃花だった。事件当日の事実すら明らかにならないうちに、誰が「本当に悪い」かを問うことに、いったい何の意味があるのか不明だ。アンケート結果は、さまざまなメディアの白鵬バッシングの“成果”にすぎないのではないのか。

 本来は、事実が明らかになり、それに応じた責任の取り方がなされ、再発防止の対策がとられるべきだろう。しかし、いまだ事実が明らかにならないうちから、いわば事実を置き去りにしたまま、背景事情と空想で責任追及が展開されている。

 日馬富士の引退表明も早すぎた。事の経緯や被害者の傷害の程度次第では、違った責任の取り方もあったかもしれない。

 今回の事件でメディアが最も問うべきは、貴乃花と白鵬の確執とか、「横綱の品格」云々よりも、角界の暴力的体質が今なお残っているのではないか、という点だろう。

角界に今も残る“暴力的体質”

 07年に時津風部屋で17歳の新弟子が親方や兄弟子から受けた暴力によって死亡した事件以降、改善策はとられたが、それでも角界から暴力的体質がなくなったわけではないようだ。

 11年1月には、芝田山親方がモンゴル出身の弟子に暴行したとして書類送検され起訴猶予処分となった。この年には、「週刊新潮」(新潮社)が「弟子20人が夜逃げした『鳴戸親方』角材殴打『狂気の暴力』」と報じ、春日野親方が弟子3人をゴルフクラブで殴りつけた事件も明らかになった。さらに昨年3月には、兄弟子の暴行で左目をほぼ失明したとする元力士の訴えに対し、東京地裁が暴行の事実を認め、芝田山親方と兄弟子に3200万円の損害賠償を命じる判決を下した(親方・兄弟子は控訴したが、高裁で昨年11月に和解)。

 11月14日の日経新聞電子版は、角界の暴力問題について、こう書いている。

「時津風部屋の事件以降は各部屋の稽古場から竹刀が撤去されるなどしたが、相撲界には暴力的な体質がなお残る。不始末をしでかした付け人に言葉ではなく体を使って“指導”する力士。元気な下位力士を痛めつけることに主眼を置いたような、荒々しい技を見舞う上位力士もいる」

江川紹子/ジャーナリスト

江川紹子/ジャーナリスト

東京都出身。神奈川新聞社会部記者を経て、フリーランスに。著書に『魂の虜囚 オウム事件はなぜ起きたか』『人を助ける仕事』『勇気ってなんだろう』ほか。『「歴史認識」とは何か - 対立の構図を超えて』(著者・大沼保昭)では聞き手を務めている。クラシック音楽への造詣も深い。


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