米国本土、北朝鮮からのミサイル迎撃失敗の可能性…ロシア、豊富な地下資源狙い支援強化
加えて、このところ北朝鮮から小さな木造船が大量に日本海岸に漂着するようになった。しかも、白骨化した乗組員や疲労困憊気味の生存者が相次いで見つかっている。3年前から北朝鮮籍の漁船とおぼしき小舟が頻繁に日本海に出没してはいた。その数、昨年の時点で約800隻。その都度、海上保安庁の巡視船が警告を発し、追い返していた。
ところが、今次の冬は異常事態といえるだろう。なぜなら、日本海の無人島から電気製品や備蓄食料を盗んだり、日本の排他的経済水域で違法なイカ釣りを繰り返したりと、傍若無人ぶりが目立つからである。なかには複数の死体を積んだり、誰も乗っていない小舟も多い。まさに「幽霊船団」のごとくである。
当然、海の藻屑となった漁船も数知れない。なかにはスパイ工作船もあるようだ。日本の警備体制や港湾情報の収集が目的とされる。かつては日本人の拉致が目的であった時期もあったが、今ではそうしたことはなくなった。逆に韓国や日本への亡命を目指しながら、強風や荒波にあおられ、漂流するケースもあるに違いない。いずれにせよ、こうした異常事態の背景には「北朝鮮の危機的状況」が隠されている。
昨年夏、金委員長は新たな号令を発した。「漁業を新たな成長産業にせよ。漁船は軍艦と同じだ。人民と祖国を守る使命がある。魚は銃弾であると同時に大砲の弾にもなる」というものだ。要は「魚をたくさん獲ってこい」というわけだ。昨年11月、朝鮮労働新聞は次のような社説を掲載している。「冬場の漁場は重要な戦いの場だ。命がけで目標の漁獲高を達成せよ」。
過去20年間、国連の経済制裁を回避してきた数少ないジャンルが漁業であった。そのため、北朝鮮は15年から16年にかけ、中国向けの海産物の輸出量を75%も増加させ、昨年の対中輸出額は約250億円になっていた。しかし、17年8月には海産物も制裁の対象になってしまう。
苦肉の策として、北朝鮮は自国の近海における漁業権を中国企業に次々と売り始めた。モノやヒトではなく、操業権の売買という手法で制裁を回避しようとしているわけだ。今や北朝鮮の漁民たちは近海で操業ができなくなり、遠く離れた日本海の「大和堆」と呼ばれる漁場にまで進出せざるを得なくなったのである。
日本海での幽霊船は今後も増えるはず。なぜなら、国連によれば2490万人の北朝鮮人民のうち1800万人は政府からの配給食糧に依存しており、1050万人は栄養失調に陥っているからだ。生きるためには目の前の「海の幸」に頼るしかない。そんななか、金委員長は自国民に向けて「健康のために1日2食運動を進めよう」と身勝手な号令を出し続けている。北朝鮮人民の半分は1日1食もままならないにもかかわらずだ。このままでは、体制の内部崩壊もあり得るだろう。
豊富なレアメタル争奪戦
こうした危機的状況を乗り越えるには、従来とは異なる革新的な経済政策が欠かせない。そこで急浮上しているのが、100兆円は下らないと目される地下資源の開発である。未開発の膨大なレアメタルに関しては、中国やロシアも狙いを付けている。もちろん、アメリカも虎視眈々と狙っているようだ。
トランプ政権は日本が植民地時代に関与した北朝鮮と中国国境地帯の地下資源開発のデータを提供してほしいと日本政府に要求してきている。今でも日本企業は当時の資源探査の情報を保有しているのだが、こうした「足で稼いだ」現地情報はアメリカが得意とする資源探査衛星からは得られないもの。
ブッシュ政権時代のアメリカはたびたび交渉チームを北朝鮮に送り込み、資源開発に関する話し合いを続けていた。いわゆる「6者協議」が進展していた頃には、北朝鮮も前向きな対応を見せていたもの。しかし、アメリカ政府が提示した条件では北朝鮮が応じず、交渉は中断してしまった。
日本とすれば、北朝鮮の経済を劇的に発展させる起爆剤になる情報と経験を有しているわけで、アメリカ、ロシア、中国を巻き込み、共同開発への道筋をつけることができれば、北朝鮮の暴走を建設的な方向に大転換させることも可能になるだろう。
そうしたパイプを生かそうとしているのがロシアのプーチン大統領である。このところ、中国以上に北朝鮮への支援体制を強化させている。その狙いは北朝鮮の資源獲得にあることはいうまでもない。平壌にあるロシア大使館の最重要任務は北朝鮮の地下資源に関するデータの入手といわれる。
一方、かつては紙くず同然といわれた北朝鮮の債券も、このところ国際金融市場で秘かな人気を集めるようになった。40数年前まで、日本の大手商社もこぞってダミー会社を経由して北朝鮮貿易に邁進していた時期がある。しかし日朝関係が微妙になった後は、代金が焦げ付いたままのケースが多い。北朝鮮側は、将来日朝関係が改善されれば未払い金を清算するとの念書を日本側に発行しており、その額は数千億円に達するといわれる。
現状では紙くず同然の債券ではあるが、今後日朝の国交が正常化するなり、南北統一が実現するなりすれば、額面どおりの金額で現金化できる可能性も否定できない。かつてベトナムの債券も二束三文で取引されていた時代がある。ところが、ドイモイ政策で外国からの投資を受け入れて景気がよくなると、底値で債券を買い取っていた投資家はぼろ儲けができた。
2匹目のドジョウではないが、北朝鮮の債券にもその可能性はある。2007年の年初の段階では、額面1ドルのものが21セントで取引されていたが、最近では30セント近くまで上昇している。もともと北朝鮮債券を売買できるようにしたのはフランスのパリバ銀行。世界中の金融機関が処理に頭を悩ませていた北朝鮮の融資債券をかき集め、証券化したのである。現在、この債券市場は日本円にして総額650億円にまで膨らんでいる。
この種類の金融商品の販売を仕切っているのが、ロンドンのシティバンク内に事務所を構えるエキゾティック社である。国連の経済制裁など、どこ吹く風といった様子で、徹底してビジネスチャンスを追い求めているわけだ。要は、北朝鮮の商品価値を見極めようとしているのであり、チャンスがあれば北朝鮮との取引で大きな利益を上げようと虎視眈々と狙っているにすぎない。
アメリカからは、超党派の議員団がしばしば平壌を訪問しているが、核開発疑惑が表沙汰になる前の1998年6月には、全米鉱山協会がロックフェラー財団の資金提供を受け、現地調査を行った。その上で、5億ドルを支払い北朝鮮の鉱山の試掘権を入手している。当面の核問題が決着すれば、すぐにでも試掘を始めたいという。とはいえ、アメリカの先制攻撃や北朝鮮の反撃という戦争状態になれば、こうした資源開発も幻のプロジェクトで終わってしまう。
先制攻撃の可能性をちらつかせながら、トランプ大統領は北朝鮮と水面下での交渉を続けている。「ディールメーカー」の面目躍如といったところだ。今後事態が急変し、北朝鮮に対する経済制裁が全面的に解除されることもあり得ない話ではない。現に、中国もロシアもその方向で動き出している。利に敏いトランプ大統領のこと、前言を翻すのは日常茶飯事。
いわゆる投資ファンドにとっては、相手が独裁国家であろうとテロ支援国家であろうと、安く資源を手に入れることができるとなれば、どこへでも出て行く。彼らの売り文句は「北朝鮮は第2の中国」である。「1980年代の中国」の可能性があるというわけだ。日本はトランプ大統領の発言を額面通りに受け取っていては、大きなビジネスチャンスを失うことになりかねない。
(文=浜田和幸/国際政治経済学者)