昨年4月、神戸山口組から離脱した織田絆誠代表らによって結成された任侠山口組。結成後、組織名称に「団体」(結成当初の名称は「任俠団体山口組」)と付けたり、従来の山口組のように組織をピラミッド型にはせず、トップに組長を置かなかったり、本拠地を明確に定めなかったりするなど、同団体は、公安委員会による指定暴力団への指定を困難にさせるために練られた組織体制を戦略的に用いてきたのではないかとみられていた。
ヤクザ事情に詳しい専門家をもってしても、「任侠山口組は、傘下組織同士に序列をつけず、横のつながりに重点を置いた親睦団体的な組織形態にしていたため、指定暴力団とするには、これまで定められていた指定暴力団の要件を改正させる必要があるかもしれません」と語っていたほどだ。
また、警察当局はこれまで任侠山口組を独立団体として認めず、あくまで神戸山口組の内紛状態の中に存在する組織としていた。そのため、任侠山口組の組員が逮捕されても、あくまで「神戸山口組系組員」という警察発表を続けていたのだ。
だが、その状況が変わりつつあるという。
「どうも2月上旬には公安委員会が聴聞会(当該団体の関係者の主張を聞く機会)を公示し、遅くとも3月上旬には任侠山口組を23番目となる指定暴力団として指定するような動きがあります」(大手紙記者)
こうした動きは、著者らにもある程度は予想できていた。
任侠山口組が結成されたのは昨年4月30日。これを受け、当局が新たなる団体が誕生したと認めてしまえば、任侠山口組を単独組織として指定暴力団にしなければならない。だが、指定までには最低でも半年近くの準備期間が必要となり(最短といわれる、神戸山口組の場合で5カ月)、その期間は、指定暴力団の枠組み(指定暴力団である神戸山口組内にある組織という枠組み)から外されてしまうのだ。
この準備期間は非指定暴力団扱いとなるわけだが、指定暴力団と非指定暴力団では、ヤクザを心底冷え上がらせる暴力団排除条例や暴力団対策法による規制のレベルが異なる。当局にとっては、任侠山口組は指定暴力団の枠組み内にいてもらうほうが取り締まり上、好都合だったわけだ。
そのために当局は偽装離脱説や内紛説を持ち出しては、表面上は任侠山口組を神戸山口組の中にとどめておきながら、一方水面下では、任侠山口組を実態としては独立団体であるとして、指定暴力団にするための準備を着々と進めるというイレギュラーな手続きを行ってきたのだろう。しかし、これについて現場の関係者らの声は落ち着いたものだ。
「もともと神戸山口組内組織として指定暴力団扱いされていたのだ。新たに任侠山口組として指定されたからといって、組織運営に何か支障きたすということはないだろう」(任侠山口組関係者)
当局は任侠山口組の勢力をどう見るのか?
一方で関心を集めているのは、公安委員会が発表することになる任侠山口組の構成員だ。ある業界関係者はこう話す。
「公安委員会が、任侠山口組の本拠地として、結成式などを行った兵庫県尼崎の古川組か同じく尼崎の四代目真鍋組の事務所を認定するのはまず間違いない。注目されるのは、任侠山口組の構成員数をどれくらいとみているのかといったところ。巷に出回る任侠山口組の御通知を見ていると、続々と任侠山口組に参画する者が出てきており、一見、組織を拡大しているように見えるが、実際には、六代目山口組にしても神戸山口組にしても、それによって勢力を衰退化させているとは現在、聞かない。当局発表はひとつのバロメーターでしかないが、それでも注目されているのは事実だ」
この関係者が話すように、警察庁が毎年3月に発表する構成員の人数と実際の人数では昔から大きな隔たりがあるといわれてきた。それは明確に離脱や処分されている末端の組員一人ひとりの動向まで調べきれないからだ。加入に対しても、末端になればなるほど、実態はわからない。そうした誤差が、組織全体で見ていくと、実情との大きな隔たりになるのだ。
そういった背景の中で、任侠山口組を当局がどれほどの勢力として見ているのか、明確に公表されることには意味がある。勢力規模によって、取り締まりの強化ぶりが変わってくるからだ。
そうした渦中にある任侠山口組が28日、定例会を開催した。定例会の開催は昨年10月以来で、開催場所は今回も兵庫県尼崎市の四代目真鍋組本部だった。そこには、今年に入って新たに参画し、直参へと昇格を果たした4人の組長のうち3人の組長らが姿を現した。
「1月14日付けで加入した草野氏(世督・草野一家総長)はインフルエンザのため、代理出席となった」(任侠山口組関係者)
草野氏以外にも、今回の定例会ではインフルエンザなどによる病欠が十数人出たのではないかと話している。
漏れ伝わる話では、定例会においては、重要な通達事項などはなかったものの、新たに組織図が作成されているようで、また各組員が組織内で過ごしやすくするための方策などが話し合われたようだ。
発足当時、任侠山口組が尼崎で会合を開くたびに駆けつけるマスコミや警戒にあたる警察官などで、事務所周辺は騒然とした事態になっていた。だが、今回の定例会ではそういったことはなかったようだ。
(文=沖田臥竜/作家)
●沖田臥竜(おきた・がりょう)
2014年、アウトローだった自らの経験をもとに物書きとして活動を始め、『山口組分裂「六神抗」』365日の全内幕』(宝島社)などに寄稿。以降、テレビ、雑誌などで、山口組関連や反社会的勢力が関係したニュースなどのコメンテーターとして解説することも多い。著書に『生野が生んだスーパースター 文政』『2年目の再分裂 「任侠団体山口組」の野望』(共にサイゾー)など。最新小説『忘れな草』が発売中。