財務省は、佐川氏の国会答弁との整合性を取るために改ざんを行ったと説明しているが、問題は、なぜ佐川氏が国会でこのような発言を行ったのかである。やはり、17年2月17日に安倍首相が行った「私か妻が関与していれば首相も議員も辞職する」という発言に抵触する部分を、首相官邸サイドからの働きかけで削除させたのではないかという疑念も強まっている。
国家の屋台骨を揺るがす問題
改ざん問題は、その改ざん内容が発表された翌日(3月13日)には、各紙が1面トップだけでなく、社会面、政治面、社説などで多角的に報じた。各紙は昭恵氏に関連する記述を削除した点を大きく取り上げたが、「最終責任者は佐川氏」と主張をする麻生氏にも責任があるという論調や、安倍首相にも責任があるとする論調など、ニュアンスの差はある。それについては「MAG2 NEWS」(3月14日)が詳しい。
しかし新聞各紙は、改ざんについて、これを許せば国家の屋台骨が壊れてしまう犯罪行為であるという姿勢では、ほぼ足並みをそろえている。
<安倍首相の妻昭恵氏らの名前を消し、国有地売買を特例で処理していることを削除した今回の行為は「売買の判断に係わる重要な事実を無かった事にしたのと同じであり、だます意図に基づく行為で悪質、国民への背任行為>(3月13日付朝日新聞/作家・元外務省主任分析員の佐藤優氏)
<公文書は、決裁したら完成。それに基づいて仕事をする。改ざんが認められるなら、官僚組織はがたがただ。今回の改ざんはモラルの問題ではなく、犯罪>(同/元総務大臣・早稲田大学教授の片山善博氏)
<政府の活動の根本部分に改ざんがあったというのは、民主主義の下での行政運営を揺るがす非常に重大な案件(略)国会に虚偽を含んだ行政文書が提示され、質疑もそれに基づいて為されたというのは、ゆゆしき問題だ」(3月13日付読売新聞/京都大学教授・待鳥聡史氏)
<決裁文書には、組織内での調整の上、最終的に意思決定をしたことを記す(略)書き換えれば刑法上の罪に問われる可能性もある。行政官が『忖度』で対応する水準を超えている(略)財務省は組織で議論し、意思決定して行く役所だ(略)書き換えを行ったのだからなにか相当な圧力があったとしか思えない>(同/法政大学教授・小黒一正氏)
これらの論説からも、安倍首相と麻生氏の対応には、大きな問題がある。麻生氏は一切を責任転嫁した佐川氏をこれまでは「適材適所」として評価し、今回の国有財産の払い下げを「適切」に行われてきたと国会答弁し、安倍首相も山本太郎参議院議員の質問主意書に「適切」と答えてきていた。今回の改ざん発覚に当たり、言葉としての「遺憾」表明だけでよいのだろうか。
もし財務省が言うように、佐川氏が理財局長という地位を利用し、局長判断で一切の改ざんを指示命令し実行したということであっても、少なくとも以下の3点についての意見表明が必要ではなかったか。
(1)立憲民主主義国家の基礎となるのは情報の保管であり、公用文書の改ざんは、国民やメディア、国会に対して保有情報の共有化を図り、行政の施策についてのチェックを受けることが損なわれたということであり、改ざん自体許しがたい犯罪行為であることの表明。
(2)その上で、改ざんの目的や背景について、与野党を超えて調査できるように国会での調査特別委員会の結成に与党としても協力し、二度と改ざんが行われないような対策対処提案を提出することに協力する。
(3)改ざんが、日本の官僚機構の中軸である財務省、国交省から起きたという点。そしてこれまで、この森友問題での処理を「適切」と容認してきたことについて、トップとして責任を取る。
以上の3点を踏まえ、最高責任者である安倍首相と麻生氏は、最低限の責任の取り方をすべきである。
佐川氏最終責任者論の間違い
今回の改ざんのキーマンである佐川氏、そして昭恵氏の証人喚問は、全容解明のためにもちろん必要である。しかし、明らかになった改ざん箇所や貸付契約書、延払い(10年分割)売買契約書の内容を見ても、財務省の当時理財局長であった佐川氏一人の責任としてすませるには、ほど遠い内容が、書かれている。佐川氏は最終責任者ではなく、森友問題解明の第一歩なのである。トカゲのしっぽ切りをしては、問題の真相は見えてこない。
もともと森友問題は、安倍首相による縁故者(昭恵氏が名誉校長を務めていた森友学園)への便宜供与として進められてきていた。その具体的な経過は以下のとおりである。
・13年、用地取得に森友学園が手を上げる。当初学校法人としての資格もない森友学園が、資格取得(可能)となる15年1月まで待つ。
・15年、資金がない森友学園への貸付契約(一括払い下げではなく特例処置)
・16年、資金がない森友学園に埋設ごみを理由とした9割引きで、かつ延払い(分割)の売買契約
その売買契約の決裁文書は、16年6月14日に決裁が下りていた。その時の理財局長は、迫田英典氏である。売買契約時(16年6月20日)の理財局長は佐川氏であり、また今回の改ざんは佐川氏の下に行われたが、貸付契約や売買契約の決裁は、佐川氏の理財局長就任前に描かれている。しかも、これだけ大きな政治問題になっている案件を、財務省の一部局の局長が一人の判断で実施したというのは不自然である。
今回の改ざんを直接指揮命令したのが佐川氏であるとしても、この改ざん問題は、佐川氏が官僚人生を棒に振ってでも国家の財産に損失を与える背任行為に走った核心部分にメスを入れることがなければ、問題は矮小化されてしまうであろう。
その意味では、政治の不当な介入によって、“省庁の中の省庁”とされる財務省が、なぜ政治的圧力に屈し改ざんを行ったのか。今回の改ざん問題において行政の最高責任者である安倍首相と麻生氏の下で「調査」や「今後の対策」を検討するようなことは、あってはならない。このままでは盗人が、裁判官として裁くというようなことになってしまう。
改ざん内容から見えてきた最大の注目点
今回の改ざん問題に関する財務省の「決裁文書についての調査の結果」(2018年3月12日)で注目すべき点は、「本件の特殊性」「特例処理」「政治家の関与」「昭恵夫人の関与」「事前の価格交渉」の記載のほか、「12.国有財産の鑑定評価委託業務について」(P.65)の文書全部が削除されている点である。
この部分は、森友学園と国との売買契約書「国有財産売買契約書」(16年6月20日)を結ぶことになった経緯などが書かれている。森友問題の核心中の核心部分である。
契約条文を見ると、1年前に貸付契約した土地(第1条)を1億3400万円で売却すること(第2条)、即納金を2787万円とし(第3条)、即納金の支払い後に土地の所有権が移り(第8条)、しかも10年分割の延納金は毎年1千数十万円と定めている(第5条)ことがわかる。
つまり9億5600万円と鑑定されていた価格が、9割引きの1億3400万円になっていることが契約上謳われている。ところが、その理由に関する記述は、契約上は記載されていない(註1)。
しかも契約書だけでなく、決裁文書(改ざん後の)にも、なぜ森友学園への払い下げにおいて、約9億の鑑定価格の9割引きもの割引が行われ、約1億円で払い下げられたのか理由が書かれていなかった。
一方、昨年来の国会での論議での、野党の努力によって次のことが明らかになっていた。一度3mの深さまでのごみの撤去作業を行った後、3mより深い地下から新たにごみが見つかり、そのごみ量を推計したところ約2万トンになった。その撤去費用を計算して8億2000万円として値引いたため、1億3400万円という価格になったという点である。その算出に当たって時間がなかったため、不動産鑑定士を使わず、国交省大阪航空局が算定していたのだった。
ところが、この国会での審議を通して明らかにされた点が、契約書にも決裁文書にも1行も書かれていなかったのである。約9億円の鑑定価格の国有財産が払い下げ処分され、値段が約1億円になるのに、その説明が決裁文書には一言もないのである。特に、下記の2点について記載がないことは、大きな問題である。
・ごみの埋設量から撤去料を算定したのは、大阪航空局であり、不動産鑑定士ではないこと。
・そのごみの算定量や撤去予測費用についての数値の根拠
今回明らかになった改ざん前の決裁原本の記述を見ると、一応の筋書きがわかる内容になっていた(註2)。つまり、16年に入っての校舎建設工事中に新たな家庭ごみが見つかり、そのごみを撤去しないと校舎の建設ができないこと。小学校開校に間に合わせるためには、そのような現状を踏まえた価格で売買するほかはない。ごみを理由にして9割引きの払い下げを行ったことなどが書かれてあった。
しかし結局のところ、その決裁原本では、新たに見つかったとする埋設ごみが、なぜそのような深部から出てくるのか科学的な検証は示されず(註3)、その量がなぜ2万トンにもなるのかの計算上の根拠もなく、大阪航空局が独自に鑑定したことの記載すらなかった。つまり、改ざん前の決裁原本からは、不当な値引きであったその実態が読み取れる内容になっていたのである。
このようなずさんな決裁原本に基づく契約を承認するのは、本件が特殊な案件であり、特例処理が許されるという判断が働いてのものであろう。
そして、この部分を全面削除したというのは、論理的構成を欠いた決裁文書を基に売買契約が締結されていたことが明らかになると、官僚たちの背任や政治家との関係が公になるため、それを恐れたのではないかと推察される。
三権分立の下、行政部門が国会や国民・市民に対して明らかにしなければならない情報を改ざんしたという事実は重い。安倍内閣の責任は免れず、総辞職が必要な案件であろう。
(文=青木泰/環境ジャーナリスト)
※註1:同売買契約第42条「瑕疵担保責任免除特約等」で、この売買契約が締結された後は、埋設ごみの有無を理由として、国も森友学園も損害賠償を請求しないことが定められている。これまでのいくつかの調査データで、深部にはごみは存在しないという報告があるにもかかわらず、ごみが深部に2万トンもあるとして値引いた契約に、森友学園側が文句を言うはずもない。
※註2:「12.国有財産の鑑定評価委託業務について」の「経緯等について」では、次のようなに書かれている。
・16年3月11日、森友学園より、校舎建設の基礎工事中に廃棄物が埋設され、校舎建設ができないと連絡。国は現地を確認した。
・学園側より国において工期に間に合うよう速やかに撤去をという要請。
・学園側弁護士より、「現状を踏まえた評価による価格提示があれば、買い受けて問題解決に当たりたい」
・国は、撤去のための有効な手段が見つからなかったため、弁護士から提案のあった売り払いによる処理を進めることにし、鑑定評価を行った。
・学園から売り払い後は、埋設物の存在を理由とする費用請求は行わない。
・地下埋設物については、学園に提供した「地下構造物状況調査業務委託報告書(平成21年8月)」を基に学園が実施した埋設物撤去工事により、一定深度(1~3m)までのコンクリートガラ等は撤去されたが、本地北側部分を中心とした当該撤去工事を行った深度よりも深い箇所に、校舎建築に支障となる家庭ごみ等の廃棄物が存在することが判明した。
※註3:森友学園に払い下げられた用地は、もともと住宅地であり、国交省大阪航空局が騒音対策で住民の移転を求めて買い上げた土地である。数十年前は田んぼであった場所であり、盛り土を持った盛り土層(深さ3mまでの深さ)には、住宅地にするための基礎工事用のがれきや住宅地に必要不可欠な下水管やその他の配管なども埋設され、それらは国の「地下構造物状況調査業務委託報告書」でも、明らかになっていた。森友学園は、それらの埋設ごみは賃貸借していた15年7月から11月にかけて土壌改良工事として撤去している。産廃マニフェスト報告によると撤去したごみ(コンクリート片、アスファルト片、木くず)などが約1000トン排出されていた。ところが、この改ざん前の決裁原本には、そのさらに深部から新たなごみが出たとの記述が書かれている。