平昌での体験を踏まえて国立競技場駅を見てみると、エレベーターがある出口は競技場のすぐそば。気になって東京都交通局に問い合わせてみると、エレベーターがある出口自体がセキュリティエリア内となり、閉鎖される可能性があるという。
そうなると、現在のエレベーターは使えない。新たに増設するエレベーターも、セキュリティエリアの外になるのか現時点ではわからない。もしもエレベーターが使えなくなったら、地下深い駅のホームから、車椅子の利用者や目が不自由な人はどうすればいいのだろうか。この点についてはまだ結論は出ていない。
JR東日本は、新国立競技場に近い千駄ヶ谷駅、信濃町駅、原宿駅でエレベーターを1基増設する工事に取りかかっている。JRが対応しているから、障害のある人は国立競技場駅以外の駅を使ってほしい、というわけにはいかない。なんのためのパラリンピックなのかを間違えない結論が出ることを望みたい。
障害がある人が快適に移動できない大会では意味がない
東京2020パラリンピックの開会式に、車椅子を利用している人は実際どれくらい訪れるのか。仮に観客全体の1%とすれば680人。障害のある人は、全体ではもっと多くなるだろう。
特に、ほとんどの観客が駅を利用する東京2020の場合、開会式の終了後は大混雑が予想される。使える電車がJRだけになってしまうと、障害のある人が、安全かつスムーズに、ホテルや自宅などの目的地に到着できるのか疑問が残る。深夜にようやく電車に乗れたものの、目的地にたどり着く前に電車の運行が終わる可能性もある。
観客の規模が3分の1以下だった平昌でも深夜まで混雑していたのだから、十分な想定をして、対策を練る必要があるだろう。もちろん、新国立競技場だけでなく他の会場周辺でも同様の対策は必要になる。東京都では2018年度中に、選手や観客の輸送計画案を作成するという。
交通機関の現状の問題点を解消することは、障害がある人はもちろん、高齢者など、すべての人にとって移動しやすい町をつくることにつながる。韓国で気づいたのは、平昌パラリンピックの会場付近では、歩道から道路を横断する際の段差がなくなっていたほか、補助金の活用によって飲食店などのバリアフリーも進んでいた。東京でも歩道の段差解消や点字ブロックの整備などは進められているが、現状ではまだ中途半端という印象は否めない。
パラリンピックを開催する以上、障害のある人や車椅子を利用している人が快適に移動できるまちづくりが急務なのはいうまでもない。課題のさまざまな解決策を世界に向けて発信するための時間は、あまり残されていないと感じた。
(文=田中圭太郎/ジャーナリスト)