皇室が抱える問題点
しかし、より根本的には、現代の皇室が当然に考えておかねばならない“不都合な”出来事に正しく対処できない体制であるがゆえに、起こるべくして起きた事件なのです。
このほか、現代の皇室は問題が目白押しです。皇太子妃雅子さまが長期間にわたって御不調で公務を限定的にしか務められず、愛子さまの学業も順調とはいえません。
また、今上陛下の退位をめぐる制度改正は、象徴天皇の建前からすれば、すいぶん異様な経緯をたどりました。
そして、なにより「万世一系」といわれる、世界でも類を見ない安定した日本の皇室制度ですが、現在は若い男子が悠仁親王ただひとりという危機的な状況にあります。もちろん、皇族で女子の誕生が相次いだということもありましたが、そんなことは当然起こり得ることですし、三笠宮・高松宮両家に5人の女子が続き、1990年代に男子誕生が望めなくなったあたりで危機が明らかになっていたのに、迅速な対応がなされたわけでもありません。
そんななかで、問題の本質だと考えられるのは、皇室というものが、かつての朝廷のようなしっかりした組織でなく、皇族と少人数のスタッフによる“個人商店化”していることです。
日本の皇室が万世一系という抜群の安定性を保ってこられたのは、歴代の天皇や皇族が優れた識見の方ばかりだったからではありません。朝廷といわれるような、ある種、集団指導体制で皇室を支える仕組みがあったからでした。
たとえば、明治天皇は英明な君主でおられましたが、政府はもちろん、「元勲」と呼ばれる人々、「奥」と呼ばれる公家出身者などを中心とした集団、また皇族たちがいろいろ意見も述べて天皇と議論もされていました。明治天皇の個人的な意見はなかなか通りませんでしたし、明治天皇ご自身も臣下の意見をバランス良く受け入れられました。
皇室の歴史には独裁的な力を振るおうとされた天皇もいましたが、あまり良い結果にはなりませんでした。
ところが、戦後は華族制度がなくなり、皇族の数も減り、宮内庁も弱体化し、政府との意思疎通も悪くなりました。
そしていまや、皇室は陛下および皇族一家と、弱体で積極的にさまざまな事態に対処する気もない宮内庁、そしてほとんど宮内庁幹部を通じてしか天皇や皇族と意思疎通をしない政府という、異様な状況になっています。それを“個人商店”のようだと私は表現しているわけです。