『TVタックル』に出ると選挙に勝てる?テレビ政治家と“視聴率優先”テレビ局の罪
「テレビから干される覚悟で書いた」と話すのは民主党参議院議員の鈴木寛氏だ。そういった覚悟があるだけに、本書に出てくるエピソードは考えさせられる。
例えば、2011年3月の福島第一原発事故直後に文部科学省で副大臣をしていた鈴木氏は、テレビメディアにとある要望をする。
福島第一原発事故直後から、文科省は福島県を中心とした放射線量のモニタリングの数値を、最高値のほかに中間値、最低値も公表していた。ところが、テレビメディアが取り上げるのは水素爆発の映像と最高値のみ。これでは「福島には近寄らないほうがいい」という風評被害が広がってしまう。燃料を運ぶタンクローリーも薬を運ぶMRも福島県内を避けるようになり、物流がストップ。二次被害を生み出してしまうという懸念から、鈴木氏はテレビメディアに対して、風評被害を加速させる映像ばかり流さないようにしてほしい。せめてデータを公表する際には高い数値ばかりではなく、安全な数値も出してほしいという要望を出したのだ。
しかし、あるテレビ局のプロデューサーからは耳を疑うような返事が返ってきたのだ。
「水素爆発の映像のほうが数字(視聴率)が取れる。繰り返し流していても数字が取れる」といい、テレビは最高値だけの放送を継続し、燃料や薬品が行き渡らないために二次被害が続出した。
こうした視聴率至上主義のテレビ局に対して、視聴率が自らの得票率に結びつくものとして媚びへつらう政治家たちも現れる。
消費税増税をめぐる民主党内の議論の時には、テレビメディアに使われる映像のために、形だけ議論に参加する政治家も現れた。とりまとめという段階になって、初めて会合に現れ、テレビカメラが回っている頭撮りの10分間だけ、反対演説をぶち、退出する。
この頭撮りの10分間は、通常、執行部の挨拶、政調会長の発言の時間で、議論も何も始まっていない段階だ。にもかかわらず、進行を無視して反対演説を行い、実際の議論が始まると、会場の外でぶら下がり取材を受けて、民主党執行部批判を繰り出す。こうした執行部批判の映像は、直後のテレビ朝日の『報道ステーション』で流される。テレビでは消費増税を進めようとする執行部とそれに対し反対している政治家という構図の映像が氾濫する。しかも、党内はバラバラという枠組みのなかで、報道されてしまうのだ。
「政治には、政策決定と選挙という2つの側面があります。政策決定とはさまざまな課題に優先順位をつけ、利害関係の複雑な問題を政治責任で解きほぐすこと。その一方、今の選挙はテレビの影響が非常に大きい。だから与野党で熟議を重ねても、芸能事務所に所属するような『テレビ政治家』が人気取りの発言で協議を壊してしまう。そうして政策決定が行き詰まった場面ばかりが放送されるから、政治不信が広がっていく」(鈴木氏)
●テレビで競う政治家たち
こうした現象は、00年代の小泉ワイドショー政治からエスカレート。政治家は、テレビメディアが喜ぶような映像を提供する競争を始めたのだ。
そのきっかけとなったのは、テレビ朝日の『ビートたけしのTVタックル』だ。高い視聴率に、出演する政治家はこぞって人気者になる。自民党からは大村秀章、平沢勝栄、山本一太、民主党からは安住淳、上田清司、河村たかし、原口一博、松原仁といった面々が頻繁に登場している。上田は埼玉県知事に(03年9月)、河村は名古屋市長に(09年1月)、大村は愛知県知事(11年2月)に。09年の政権交代後には、原口は鳩山内閣で総務大臣に、安住は11年に野田内閣で財務大臣に、山本は12年に安倍内閣内閣府特命担当大臣(沖縄及び北方対策担当等)に就任している。
何より選挙に強くなる。
平沢は09年の総選挙(東京17区)では、自民党に猛烈な逆風が吹き荒れるなか、5選を果たす。東京都の25の小選挙区で、唯一民主党の候補が敗北した選挙区となったのだ。96年の初当選以来、6選(小選挙区6勝)を果たす盤石ぶりだ。
松原も2000年に初当選以来、東京3区で総選挙のたびに自民党の対立候補・石原慎太郎の三男・宏高とデッドヒートを繰り広げているが、小選挙区で負けても、比例で必ず復活している。12年12月の総選挙でも、石原に2016票の僅差で敗れたが、重複立候補していた比例東京ブロックで復活し、5選を果たしている。政治家の間ではいつしか「『TVタックル』に出れば選挙に強くなる」といった声が出てきているほどだ。